テレビ東京の『なないろ日和』などのテレビ出演のほか、雑誌やラジオ、webサイト、各種イベントなどで、レシピを提供したり講演したり、審査員を務めたりと、八面六臂の大活躍を見せる料理研究家・青木敦子さん。2025年8月20日に、双葉社から、最新刊『スーパーの食材で作る 世界の卵料理』を上梓した青木さんに、この本ができるまでのいきさつを聞いてみた。
──これまで何冊くらい、料理の本を出してきたんですか?
青木敦子(以下=青木):自分で書いたものの他に、日本で出版した本が中国語や韓国語に翻訳されたり、漫画家の「まめこ」さんにコミック化していただいたものもあるので、国内外合わせて、32か33冊くらいかと思います。
──今回の『スーパーの食材で作る 世界の卵料理』は、東は日本から西はメキシコまで、世界各国の卵料理の作り方を紹介する本です。また、巻末には付録として、卵に関する科学的な情報が掲載されたり、各ページにウンチクのコラムがあったりと、読み物としても楽しめる本だと思いました。ある意味、青木さんのキャリアの現段階における集大成といますか、青木さんにしか書けない本だと思っています。
ということで、青木さんの人生を振り返ってみたいんですが、料理のお仕事を始めたのは、大学を出られた後ですよね。
青木:はい。最初はテレビ番組のフードコーディネーターのアシスタントとして働き始めました。大学の頃に栄養士の資格を取っていたのが役立ったように思います。
──じゃ、海外留学をしたのは、社会人になってからだったんですね。
青木:そうなんです。アシスタントとして働き始めて、少しずつ仕事を任せてもらえるようになった頃、「自分の武器が欲しい」と思ったんです。それで、1997年から1年弱、イタリアに留学したのが最初です。
イタリアでは、料理学校に通って、個人レッスンも受けながら、語学学校にも行っていたのですが、そこに、他の国から来ている学生がたくさんいたんですよね。
私のような料理に携わる人の他に、オペラ歌手やバイオリニスト、バレリーナ、画家や靴職人もいました。挨拶を交わすだけじゃつまらないから、「あなたの故郷にはどんな料理があるの」って、カタコトのイタリア語で聞くようにしていたんです。そしたら、宗教や文化の違いで食べられない食材も多いんですが、卵は万人受けするというか、どこの国でも食べられているのに気づいたんですよ。
──なるほど。確かにそんな食材、他にはないかもしれませんね。
青木:卵は茹でてもいいし焼いてもいいし、日常的に食べるパンで挟んだりとか、パスタにからめたりとか、麺に入れるとか。ハンバーグの中に入れたりもしますし、オムレツみたいにメインの料理として食べる場合もあるし、本当に七変化というか。すごく強い味があるわけじゃないから、何にでも合わせやすいし、いろんな国の料理に適合するんです。
あと、卵は食欲をそそる色なんですよね。半熟卵の黄身が、トロ~ッと流れる映像だけ見ても、「すごく美味しそう」ってなるじゃないですか。こうワクワクさせてくれるのには、やっぱり、本能的に何かあるんですかね。
──そうして、その頃からずっと、世界中の卵料理のレシピを書き溜めてきたんですね。
青木:そうですね。構想28年になります(笑)。ずっとストックしていて、「いつかは」と思っていたものが、ようやく孵化したみたいな感じです。

──その後も、何度も留学したそうですね。
青木:はい。その後もイタリアには、ミラノ、トリノ、ボローニャ、ローマ、レッチェと、1か月間の留学を5回はしたと思います。トリノではお料理学校の先生に直接、「宿泊費用をお支払いしますし、日本料理も教えることも可能ですので、居候しながらお料理学校に通わせてください」ってメールして、居候させてもらっていましたね(笑)。
イタリアは北から南までさまざまなところに行って、「お隣のスペインの料理も勉強したいな」と思うようになり、マドリッドでも、語学と料理を勉強するため、1か月の留学を2回くらいしました。そのうちにハエンという町で行われた世界のオリーブオイルのイベントにご招待頂き、多くを学ばせていただきました。その他にもワインや食の祭典などにも足を運んでいるので、ヨーロッパには50回以上、行っています。
──ヨーロッパの料理大国といえばフランスの印象ですが、フランス料理は?
青木:イタリアやスペインに行くときは、トランジットでフランスに立ち寄ることが多いんですが、ついでに1週間ぐらいパリに滞在して、そこでもまた料理の勉強をしていました。余談ですが、イタリアもスペインも素敵なところですが、フランスに行くと好みのものが多く、購買意欲がそそられて困ります(笑)。
──その間、お仕事はどうしていたんですか。
青木:当時は、アシスタントから独立して、テレビ番組の裏方として、年間3000くらいのレシピを考えていました。いえ、全部が放送に載ったわけじゃないですよ。レシピを書いて試作に至るまでにボツになったものもありますし、試作したけど使われなかったものもたくさんありますし。そういう生活は、10年近く続きました。
──すごいですね。年に3000かける10年で、単純計算だと3万ですよ!
青木:そのぐらいになると思います。私自身、「何でも来い」という時期だったんですよね。でも、その時に鍛えてもらったから、トラブルが起こっても、「そこは水を何グラム入れて何分レンジでチンすれば大丈夫」というふうに、乗り越えられるようになりました。今はもう忘れちゃいましたけど(笑)。
──そんなにお忙しい中、よく留学する時間がとれましたね。
青木:基本的には、1年のうち11か月働いて、1か月留学していました。「1か月だけ休ませてください」って(笑)。もちろん、それまでにいろいろ準備して、アシスタントに託して行ったんですよ。でも周りからは、「また青木が逃亡か」って(笑)。
──出版の仕事を始められたのもその頃ですか。
青木:最初に出したのは、『冷蔵庫でつくるひんやりデザート50レシピ』(2002年、河出書房新社)という本です。でも、フードコーディネーターの仕事が忙しくて、それからしばらく本は出していません。転機になったのは、2007年くらいに時間ができたので、『調味料を使うのがおもしろくなる本』(扶桑社文庫)を書いたことでしょうか。
その本の担当編集の人は、もともとすごい昔からの知り合いで、「なんかこの調味料の使い方、分かんないんだよね」とか、「焼肉のタレが残っちゃったけど、どうしてる?」とか、「タイ料理作ろうと思ってナンプラー買ったけど、その時しか使わないから」なんて話になったんです。そこで、「それはこうやってこうやって、紅茶を使うのがいいですよ」とか、「焼き肉のタレを使ってスープにすれば」とか話したら、面白がってくださって。他にも「料理のさしすせそって、どうしてその順番なのか知ってます?」なんてウンチクを語っていたら、「面白いですね。それ、本になるんじゃないですか」ってなったんです。その頃はテレビの仕事もあったので、締切と重なった時とかは本当に3日で睡眠時間が2時間とか……1回倒れました。無理が利くと思っていたんですよね。今は絶対、やらないです(笑)。
──その本はかなり売れた、とお聞きしました。
青木:おかげさまで評判もよくて、後でリニューアルした「お得版」が出るまで、27回、重版にかかりました。
──出版社から仕事のオファーも増えたのでは?
青木:はい、その後は、年に2~3冊はコンスタントに出していたように思います。最初は調味料やイタリア料理の本が多かったですが、だんだんいろいろなレシピ本のお仕事もいただけるようになりました。
──今回の『~世界の卵料理』の前に出したのは、『オイスターソースひと匙で「劇的においしくなる!」レシピ52』(扶桑社ムック)で、2018年。けっこう時間があきましたね。
青木:はい。実は、10年くらい前から、「ちゃんと勉強したい」と思って、実践女子大学の大学院に通っていたんです。『オイスターソース~』は在学中に撮影しましたが、当時は仕事をだいぶセーブしていました。
──留学に大学院と、青木さんぐらいのキャリアを積んだかたは、現状維持で満足しそうなものですが、すごい向学心ですね。じゃ、今は修士課程も修了して……。
青木:はい。食物栄養学で、博士号も取得しました。
──そんな青木博士の(笑)最新刊『スーパーの食材で作る 世界の卵料理』には、卵に関する科学的知識がたくさん載っていて、他のレシピ本とは一線を画す作りになっているように思います。さて、青木さんといえば、『なないろ日和』(テレビ東京)など、テレビでもご活躍なさっているイメージですが、「青木敦子」として出るようになったのはいつからですか?
青木:それが、覚えてないんです(笑)。日本テレビの『汐留スタイル!』(2003~2005年)という夕方生放送の情報番組に、ホンジャマカの石塚英彦さんと一緒に週1で出たのが最初の頃のような気がします。「石ちゃんのニッコリ簡単クッキング」というコーナーを1年くらいやったような……。他にも、みのもんたさんの番組など、さまざまな番組に出演させていただきました。ありがたいことだと思っています。
──ちょうど年間3000レシピを作っていた頃ですね。忙しすぎて、細かいことを覚えていないのも不思議はないです(笑)。
青木:もちろん、呼んでいただけるのはありがたいことなので、目の前の仕事を一生懸命やってきたつもりです。といいますか、一生懸命やることが私にとって「答え」だと思っています。その時の全力の私を見て、「次に仕事をオファーしよう」とか、「もう一緒にやりたくない」とか、それで決まると思うので。
──反響が大きかったのはどの番組に出たときですか。
青木: 2010年に、テレビ東京の『ソロモン流』で取り上げていただいたときでした。
──ゲスト1人に密着するドキュメンタリーですよね。今でいうと、『情熱大陸』みたいな。
青木:あの番組に出た後は、自分でも驚くほどたくさんのご依頼をいただきました。今も、名古屋の天狗缶詰さんの顧問をさせていただいていますが、その頃からのお付き合いです。
──テレビの他に、イベントで登壇したり講演会に出たりと、人前に出る仕事も多いと思いますが、緊張したりはしないんですか。
青木:それが私、あがったことないんです。正直に言って、あがるというのがよくわからないんですよ。
──えっ、そうなんですか!
青木:たぶん、「自分をよく見せたい」という気持ちがあまりないので、「そのまま見てもらえばいいし、失敗したらそれはそれで自分なんだから」って感じです。あと私、あまり悩んだりすることもないので、眠れないといったことがまずないです(笑)。
──人間関係とか将来の不安とか、悩んだりしないんですか。
青木:悩んでいても、何も解決しないじゃないですか、悩んだところで答えが出るんだったら悩みますけど。先のことを考えても、どうなるかわかんないし、困った時に考えればいいかなって。
──なるほど、達観してますねぇ(笑)。
青木:別に達観しているつもりはないんですが、周りからは「侍」って言われます(笑)。
──では最後に、『スーパーの食材で作る 世界の卵料理』の読みどころを教えて下さい。
青木:ふだん食べている卵焼きや目玉焼きもいいんですが、この本を見て、いろんな料理に挑戦して、世界旅行の気分になってもらいたいですね。円安ですし(笑)。また、卵の栄養や効果的な食べ方などなども記していますが、私が今まで温めてきたことがここで役立ったと思います。レシピは、どこでも買える食材で、簡単に作れるものばかりなので、初めの一歩といいますか、この本でいろんなチャレンジをしてもらいたいです。