孫娘の思考と身体を乗っ取った間宵己代子。今度は寄生先を、自分に復讐しようとしていた18歳の青年に乗り換えた。生き続けることに取り憑かれた彼女の執念は、決して消えない──。
ブックススタジオのバイヤーが選んだ〈一気読み大賞〉第1位の前作『間宵の母』に待望の続編が誕生!
「小説推理」2025年9月号に掲載された書評家・大矢博子氏のレビューで『中にいる、おまえの中にいる。』の読みどころをご紹介します。

■『中にいる、おまえの中にいる。』歌野晶午 /大矢博子 [評]
『間宵の母』から6年、ついに続編が到来。己代子を中に入れたまま、蒼空はどこへ向かうのか?
2019年に刊行された『間宵の母』。間宵己代子が死後に孫娘の中に入り込んでその思考と体を乗っ取り、周囲を地獄へと染めていくホラーである──と書いた時点で前作のネタバレなのだが、ここまでを説明しないと続編『中にいる、おまえの中にいる。』を紹介できないのでお許し頂きたい。大丈夫、それがわかっていても『間宵の母』は充分楽しめる。とまれ、まずはぜひ前作からお読み頂きたい。
前作のラストで己代子は18歳の青年・栢原蒼空の中へと移った(これもネタバレだが)。蒼空は己代子と共生しながら、そのうち孫娘のように自我が消えてしまうのを恐れていた。だが共生は続く。どうやら己代子は蒼空を上手く乗っ取れないようなのだ。
そこで寄生先を他の人物にできないかと考え、蒼空に真砂という町へ行くように指示した。そこにおあつらえ向きの寄生先があるという。しかし蒼空は真砂で虐待されている少女に会い、ある行動に出た──。
前作はとにかく不気味でそりゃもう怖かった。それに対して今回はむしろ特殊設定ミステリの趣が強い。もちろん己代子が急に、かつ一時的に蒼空を乗っ取る場面などゾクリとさせる箇所もあるが、己代子と蒼空が協力して物事に当たる様子はなんだかチームのようで、わくわくさせられるのである。
己代子が蒼空を乗っ取るための条件は何なのか、寄生先を他の人物に変えるにはどうすればいいのか。それらを探っていく様子はミステリだし、その過程で巻き込まれるトラブルへの対処も「そう来たか」の連続で飽きさせない。
だが何といっても最大のサプライズはラストだ。被虐待児を助けるための蒼空の決意と計画に感動したあとの、まさかの、本当に「えっ?」と声が出るくらいまさかの結末には心底やられた。そうだ、歌野晶午だもの、一筋縄で行くわけなかったよ!
怖さと不気味さに満ちた前作が思わぬ方向に進化した続編である。前作と併せてどうぞ。