小学三年生の詩穂と紗江子は親友同士だったが、紗江子の母の再婚相手である若い義父と詩穂の母が失踪した。
その日から、紗江子の母の精神状態は普通ではなくなる――。
トラウマレベルの恐怖に鳥肌がとまらない!
トイレに一人で行けなくなった営業部20代男性社員(独身)が、作品の魅力を渾身リポート!
こんな人にオススメ!
・ホラー×ミステリーの組み合わせが大好物な人
・現実と幻の曖昧な境目に足を踏み入れたい人
・「異常性」にとことん惹かれる人
・確実に、ラストで裏切られたい人
あらすじ
小学三年生の間宵紗江子とクラスメートの西崎詩穂は親友同士だった。しかし、ある日、紗江子の母・間宵己代子の再婚相手である若い義父・間宵夢之丞と詩穂の母が失踪する。駆け落ちと見られていた。
その日から、歯車は狂い始め、紗江子の母の精神状態は普通ではなくなる。詩穂も実の父親からDVを受けるようになり、児童養護施設に入れられてしまう。
その後、二人は地獄のような人生を送ることになるのだが、実は驚くべき真実が隠されていた。
ふんふん、母親の“復讐”の話なんやろうなあ。(´c_,`)
はいはい、不倫相手への復讐の物語、といったところかな? あらすじを読んで、ストレートに見出しのように思った方は多いのではないでしょうか? かくいう私も例外ではなく、名探偵気取りで、そう受け取って読みはじめました。
間宵己代子の再婚相手、間宵夢之丞は己代子の10歳年下。とてもハンサムで物腰柔らか、クレーンゲームが得意でお話上手。娘のクラスメートの子供たちにも、保護者のおかあさんたちにも大人気のイケメン夫なのです。
羨ましいぞ、夢之丞。
保護者参観授業で夢之丞さんが教室に入ってくると、おかあさんたちの口元はゆるみ、頬にぽおっと朱が差します。授業のあとの保護者会では、椅子取りゲームのように、夢之丞さんの隣の席を奪い合います。担任の船津先生もラブビームを発射します。
『間宵の母』P9-10
ラブビーム!?!?
そんなものを照射される程の自慢の夫が、ある日、娘の親友の母親と駆け落ちしてしまうのですから、夫に逃げられた間宵己代子の怒りの矛先は、駆け落ちしたとみられる西崎家へと向かいます。
私は、ここまでのストーリーを追いながら、「まあ、頭がどうにかなってしまいそうな状況で、復讐に走りたくなる気持ちも少しはわかるかなあ。」なんて感想を持ちつつ、どう西崎家に復讐していくのだろう? と予想を立てていました。
予想は大ハズレ!? “間宵己代子”はギアが違った。
豹変かあ。落書きとか? ポストに異物混入? 保護者会で陰口を叩く? 電話をかけ続ける? 幸せな二人をストーキング? そんな私の想像は、ものの数ページで打ち砕かれました。
「近くの襖が開いていて、白い着物を着た女の人がいるのが見えました。紗江子ちゃんのおかあさんです。己代子さんは紫色の袱紗の上に置かれた巨大な玉に向かって念仏のようなものをわめき、合いの手を入れるように鉦や太鼓を叩きながら、玉の周りをぐるぐる歩いていました。」
『間宵の母』P58
あれれ~!?!? そっち!?
読書中、力の限り叫びました。引用は、紗江子ちゃんのクラスメートの目撃談です。
己代子さんは何やら呪詛を唱え始め、呪いの儀式をおこないます。
紙には女の人の顔がありました。詩穂のママでした。ポスターにも使っていた、密会を隠し撮りした写真です。一枚、二枚ではありません。顔写真のコピーは山と積まれていました。高さ三十センチはありました。山は、三つ、四つありました。そのすべてがママの顔写真のコピーでした。総計何百枚、いや何千枚でしょうか、己代子さんはそれを、次から次へ火にくべていたのです。詩穂のママを呪っていたのです。
「ごずれかばさちあんどぶろなけそこずるせくあごりぽるめぼうもんだちゅーいん!」
『間宵の母』P59
駆け落ちの相手がいなくなれば、夫は家に戻ってくる、だから西崎早苗が死にますように! と呪いをかける己代子の絶叫……。
これはまだ序の口で、第一章の出来事なのです。ここから、なんと、数十年にも及ぶ長い悪夢のような物語が始まるのです!
是非、物語の結末を見届けて欲しい。
今回は、物語の導入部分と、間宵己代子の「異常性」が垣間見えるシーンをご紹介しました。ここまで読んでしまえば、もうノンストップ。一気に最終章まで読み切ってしまうこと間違いないと請け合います。
果たして間宵己代子の目的は本当に“復讐”なのか? 「間宵家」と「西崎家」の辿り着く先とは? ミステリの名手、歌野晶午が送る最恐のホラー・ミステリーをぜひお楽しみください。