ブックススタジオのバイヤーが選んだ〈一気読み大賞〉第1位を獲得した『間宵の母』。

 その続編『中にいる、おまえの中にいる。』は、かつて孫娘の身体と思考を乗っ取った女が、今度は自分に復讐しようとしていた青年に寄生する、書き下ろしホラー・ミステリーだ。この作品を歌野晶午氏が執筆することになったきっかけとその魅力を、編集担当Hが語る。

 

 

「Hさんが好きそうなプロット思いつきました」突然届いたメッセージ

 

 歌野さんとの出会いは、わたしが作家のエージェント会社に勤務していた頃に、デビュー作『長い家の殺人』を担当させていただいた時です。物静かで口数の少ない青年でしたが、文章やトリックに対するこだわりが強く、決して筆が早いほうではなかったのですが、とても誠実に作品に向き合う方でした。「人が死なないミステリーは書けないだろうか」と悩まれている時もありました。

 

 わたしが双葉社に転職してからは、しばらくおつきあいは途絶えていましたが、2015年ぐらいでしょうか。「Hさんが好きそうなプロット思いつきました」と突然ご連絡をいただいたのです。こんなに嬉しいことはありません。それが『間宵の母』でした。

 まあ、これが怖い怖い。〈著者最恐のホラー・ミステリー〉と銘打ちましたが、あまりの怖さに思わず笑ってしまったほどです。怖すぎると人は、笑ってしまうという経験を初めてしました。その続編が『中にいる、おまえの中にいる。』です。

 

 人に寄生する稀代の悪女・間宵己代子。極悪非道にもかかわらず、なぜか憎めない。わたしは彼女に魅了されていました。『間宵の母』の衝撃的なラストを読んだとき、すぐに続きが読みたくなったのです。己代子にまた会いたい気持ちがどんどん強まっていきました。

 

『間宵の母』から6年、『中にいる、おまえの中にいる。』で己代子は別の人間に寄生しました。しかし今回はホラー・ミステリーではあるけれど、宿主の青年と寄生した己代子との“バディ物語”として、別の楽しみ方ができます。

 

 ところで、本を読むスピードと、校正をしながらゲラ(原稿)を読むスピードは違います。舐めるように歌野さんの原稿を読んでいると、句読点の打ち方から、漢字の使い方まで、一行たりともゆるがせにしない、という強い意志を感じます。その上、文章が美しく、ストーリー展開も抜群に面白い。

 

 ホラーでありながら、クスッと笑えたり、物悲しくなったりと、なんとも不思議な魅力があります。そして己代子がなぜ、人に寄生するようになったのか、それがわかったときの哀しみ。とても深いお話です。ぜひ『間宵の母』との併読をおすすめします。