姿なき猟奇犯に挑む二人の女性を描いた長編警察ミステリー『骸の鍵』が、このたび文庫化された。
駅前のコインロッカーから発見された女性の左腕。「ロックスミス(錠前師)」を名乗る犯人は、その手に鍵を握らせ、ヒントとともに次のパーツを捜せと指示してくる。女性刑事・城戸葉月を中心とした警視庁捜査一課殺人犯捜査第六係は都内を奔走する。一方、遺体整復師の折口聡子はとある人物に監禁され、手足がない女性の遺体の復元を要求されていた——。
衝撃の結末に瞠目する本作の読みどころを、「小説推理」2018年10月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューでご紹介する。

■『骸の鍵』麻見和史 /細谷正充[評]
コインロッカーから発見された女性の左腕。犯人の仕掛けたゲームに、女性刑事の城戸葉月が挑む。麻見和史の警察小説は、いつだって必読の面白さだ。
第16回鮎川哲也賞を、本格ミステリー『ヴェサリウスの柩』で受賞した麻見和史は、3作目の『石の繭』から警察小説に転身。これをシリーズ化して、警察小説の有力な書き手と目されるようになった。また、作品のテレビドラマ化率も高く、2018年の4月から6月にかけて放送された『未解決の女 警視庁文書捜査官』は好評を博した。そんな作者の最新作となる本書は、必読の面白さが保証された警察小説である。
東京の葛西駅近くのコインロッカーで、女性の左腕が発見された。ロックスミス(錠前師)と名乗る犯人は、ヒントとなるメッセージとコインロッカーの鍵を残している。どうやら、他の身体の断片も、コインロッカーに入れられているらしい。警視庁捜査一課の城戸葉月は、葛西署の若手刑事・沖田智宏と組んで、事件を追う。
一方、折口聡子という女性が、ウツロと名乗る人物によって、拉致された。身の危険を感じる聡子。ところが、優れたエンバーマー(遺体の修復などをする技術者)である彼女がウツロから命じられたのは、意外な仕事であった。
ストーリーは、葉月と聡子のパートを交互に描きながら進んでいく。葉月のパートは、よくできた警察小説だ。チームの潤滑油を心がけながら、過去の事件を引きずり、感情的になることのある葉月。祖母に育てられ、すぐに諺を口にする、素直な性格の沖田。キャラの立ったふたりがコンビを組み、猟奇的な事件に立ち向かう。謎々のようなロックスミスのメッセージを読み解き、身体の断片を発見していく展開を夢中になって読んだ。また、厳しい捜査を通じて成長していく、沖田の姿も気持ちいい。
そして聡子のパートだが、こちらはサスペンスというべきだろう。ウツロに命運を握られた状況で、ストックホルム症候群になりかけながら、自らの仕事を果たそうとする聡子がどうなるか、ハラハラしながら見守った。しかも意外な事実が次々に判明し、物語の興趣が増していく。ふたつのパートを絡ませながら、クライマックスへと向かっていくストーリーが、とにかく魅力的なのだ。
そして事件の真相だが、これには驚いた。葉月の推理だけでも凄いのに、すぐ後に違う事実が露見し、捜査が混沌に陥る。いったい何がどうなっているのか! 複雑極まりない事件の構図と意外な犯人が分かるまで、ページを繰る手が止まらない。警察小説ファンなら必読といいたくなる、快作なのだ。