麻見和史が『ヴェサリウスの柩』で第十六回鮎川哲也賞を受賞したのが06年のことだから、もうデビューから15年が経ったことになる。
その間、《警視庁捜査一課十一係》シリーズ(講談社ノベルス)、《警視庁特捜7》シリーズ(新潮社)、《重犯罪取材班・早乙女綾香》シリーズ(幻冬舎文庫)、《警視庁文書捜査官》シリーズ(角川文庫)と、警察小説を中心に数多くのシリーズものを着実なペースで発表しており、著作数は三十冊を超えている。
本書は、18年から年に一、二作のペースで本誌に発表されていた「白黒コンビ」シリーズが、双葉文庫オリジナルで刊行されたものである。
名前のせいで何事もネガティブに考える癖が染みついている黒星達成巡査部長は、白石雪乃巡査長とコンビを組むことになる。白石は元看護師から警察官に転職した中途採用の変わり種であった。
廃ビルで発見された転落死体には、死後に刃物でつけられた「*」形の傷があった。警察に挑戦するようなメモを残した犯人の目的とその正体とは?(「星の傷痕」)
錦糸町駅近くの廃屋で発見された絞殺死体は、奇妙な形状の刃物で胸部を滅茶苦茶に損壊されていた。犯人は、なぜそんなことをしたのか?(「美神の傷痕」)
行きつけの食堂で、船木という男が失踪したとの相談を受けた黒星は彼の行方を追うが、その裏には十年前の未解決事件の影があった……。(「罪の傷痕」)
台風の翌日、駒形の路上で発見された遺体は、全身に打撲の痕があった。車に撥ねられてから引きずられたひき逃げ事件ではないかと思われたが、白石は意外な犯人を暴き出す。(「嵐の傷痕」)
隅田川沿いの公園で爆破事件が発生。幸い死亡者は出なかったものの、事件とは無関係と思える写真家に脅迫状が送られる。犯人の目的は果たして何か?(「火焔の傷痕」)
被害者の傷痕から事件の真相に迫っていく、というシリーズの基本スタイルが独創的で良い。探偵役の刑事コンビも、決して奇抜な天才型の名探偵ではないのに、白石の抱える事情が少しずつ明かされるなど、印象に残るキャラクター造形になっている。
何気ない伏線から意外な真相が判明する展開の上手さは流石は鮎川賞作家というべきか。今後が楽しみな警察小説の新シリーズの開幕である。