長年入手困難だった大沢在昌による伝説の女性バディ小説『相続人 TOMOKO』が、このたび待望の復刊となった。
夫を殺され、国籍を失い、日本に逃げ延びてきた謎の美女・トモコ。とあることがきっかけで日米複合の秘密組織に命を狙われていた彼女が目を付けたのは、自分と同じ名前を持ちながら、対照的な人生を送る風俗嬢の智子だった。米軍、CIA、警察、ヤクザ……次々に襲いかかる巨大な敵に勝つ方法はあるのか?
湊かなえ氏も涙したノンストップアクションの読みどころを、「小説推理」2025年7月号に掲載された書評家・末國善己のレビューでご紹介する。
■『相続人TOMOKO』大沢在昌 /末國善己 [評]
大沢在昌が初めて女性を主人公にした作品が復刊。息つく暇がない連続サスペンス!
大沢在昌は、〈天使〉シリーズの河野明日香、〈魔女〉シリーズの水原、『帰去来』の志麻由子、『冬芽の人』の牧しずりら魅力的な女性主人公を描いてきた。その原点が著者が初めて女性を主人公にした本書で、重要な作品ながら入手難だっただけに待望の復刊といえる。
戸籍と国籍を失ったトモコは、相続した巨額の遺産とCIAで身に付けた特殊技術を武器に、夫を殺した組織と戦うため日本に渡る。同じ頃、暴力を振るうヒモのために風俗店で働いていたカオリは、指名されホテルへ向かう。そこで待っていたのは、カオリの本名が智子ということを摑んでいたトモコで、智子の身分証明書をマンションなどの契約時に使うため声を掛けたのだ。最低の生活から抜け出すため誘いに乗った智子は、トモコと敵との戦いに巻き込まれていく。
トモコは、アメリカ軍の特殊部隊員、日本のキャリア警察官僚、暴力団までを動かす巨大な敵に何度も襲撃される。現在のように個人が情報を発信できるネットが発展していれば敵組織の情報をSNSにアップできるし、スマホやGPSで仲間との連絡や位置情報の確認も簡単に行える。こうしたテクノロジーに頼れないトモコは、知識と経験、コミュニケーション能力で窮地を脱し逆襲の機会をうかがうだけに、人間と人間のぶつかり合いが生む圧倒的なサスペンスに引き込まれてしまうだろう。
近年は、最先端とは異なるデザインやアナログ感が残る家電などに興味を持つ平成レトロがブームになっている。バブル時代の風俗を活写している本書は、当時を知る読者には懐かしく、平成レトロが好きな若い世代には新鮮に見えるのではないか。
アメリカに留学し性差別が激しい日本に帰国しない道を選んだトモコは、自分で人生を切り拓いてきた。それとは対照的に、やりたいことが見つからず流されるままに生きてきた智子が、トモコと共に戦ううち成長する展開は、智子のように将来の展望が見えないと考えている読者に勇気を与えてくれるはずだ。