女性だけに超能力が遺伝する地方都市の名家・扇谷家。予知能力を駆使して一家を支え続けてきたのは、御年99歳のおばあさまでした。自らの死を100歳と予言した彼女のノートが見つかったことをきっかけに、扇谷一族では家じまいが始まります。

 

 一見すると不思議な力に満ちたファンタジーに思えるかもしれませんが、描かれるのは普遍的な「家族の絆」と「愛」です。

 

 時代とともにライフスタイルが多様化し、家族のつながりも希薄になりがちな昨今。パートナーとの関係に悩んだり、親との価値観の違いに傷ついたり、かと思えば窮地に陥った時に頼れるのは家族であったり……。物語の設定こそ超能力ですが、描かれる悩みは誰もが共感できるもの。読み進めるうち登場人物たちに自分自身を重ねてしまうこと請け合いです。

 

 一方で、理知的で上品だったおばあさまが認知症を患ってから繰り返す、「若い頃、人を殺して桜の木の下に死体を埋めた」という殺人の告白。果たしてそれは、真実なのか? やがて明らかにされる“死体”にまつわる秘密は、涙なしには読めません。

 

 家族それぞれの暮らし方が少しずつ変わってきた今、超能力一家のヒストリーを通して、もう一度、大切な人とのつながりに思いを巡らせてみませんか?

 

【あらすじ】
地方都市・天島市で造船業を営んできた大家である扇谷家。ある日、予言の能力を駆使して一族を繁栄させたおばあさまのノート見つかった。ノートによると、どうやらおばあさまは100歳となる今年逝去するらしい。一族が集まり、家じまいをすることになるが、本家の娘・立夏には気になることがあった。それは認知症になって以来、おばあさまが繰り返す「桜の木の下に死体を埋めた」という台詞。「言葉なき者の声を聞く超能力」を持つ立夏だけは、それが事実だと知っているのだった……。