「新宿鮫」シリーズなどで知られるハードボイルド作家・大沢在昌の初期の代表作「探偵・佐久間公」シリーズが、40年ぶりに復刊。このたびついにシリーズ完結を迎えた。
本作では、主人公の失踪人調査人・佐久間公の相棒である「六本木の帝王」沢辺が、突如姿を消す。探偵のプライドにかけ友を捜すが、公の身にも危険がおよび──。シリーズ史上もっとも佐久間公の内面に迫った本作では、彼が「失踪人調査人になった理由」も明らかになっていく。
「小説推理」2024年12月号に掲載された啓文社岡山本店・三島政幸さんのレビューで『追跡者の血統 失踪人調査人・佐久間公4』〈新装版〉の読みどころをご紹介したい。
■『追跡者の血統 失踪人調査人・佐久間公4』〈新装版〉大沢在昌 /啓文社岡山本店・三島政幸 [評]
4ヶ月連続刊行もついに完結。主人公・佐久間公の“最強のバディ”が姿を消した──。『新宿鮫』前夜の貴重な一作にして、今もなお色褪せない疾走感溢れる一冊だ!
大沢在昌氏の「佐久間公シリーズ」の双葉文庫の連続復刊が、第4弾の『追跡者の血統』で終了した。大沢氏の初期シリーズがまた読めるようになったのは喜ばしいことだ。
佐久間公シリーズは小説推理新人賞を受賞した短編「感傷の街角」から始まっている。それが1979年で、第一長編『標的走路』の発売は1980年、本作『追跡者の血統』が1986年の刊行だった。綾辻行人氏のデビューから始まる新本格ミステリの潮流は1987年から始まるので、まさに「新本格ミステリ夜明け前」の頃だ。私はこの頃には既にミステリを読み漁っていたが、当時は本格ミステリよりもハードボイルドや冒険小説作家の活躍が目立っており、話題にもなっていたので、私もよく読んでいた。その流れで大沢作品にも少し触れていたが、本格的に嵌ったのは1990年の『新宿鮫』からだったと記憶している。なので今回、佐久間公シリーズはほぼ初読の新鮮な気持ちで読んだ。そして、今読んでも全く古びていない作品世界にのめり込んだ。
佐久間公は「失踪人探し」を専門に扱う探偵だ。それも若い失踪人を探すケースが多い。失踪者の姿を追ううち、その裏に見える社会の闇を突いてくるのがこのシリーズの醍醐味と言える。
だが『追跡者の血統』は異色作だ。失踪したのが、「あの」沢辺なのだから。
佐久間公にとって最も身近にいる人物といえば、まずは恋人の悠紀が挙げられるが、本作では彼女はほとんど登場しない。その悠紀以上に重要なのが、公の仕事をサポートしてくれる沢辺だ。銃撃されて命の危機に瀕した公を助けてくれたこともあるし、時には一緒にビリヤードで遊んだりもする。佐久間公にとっては「悪友」、今風に言うなら「頼りがいのあるチャラ男」といったところだろうか。
その沢辺が失踪し、公は沢辺の妹・羊子とともに行方を追っていく。見え隠れする黒人ギャング「パパブラウン」の存在。そして物語はスケールの大きな展開へ。果たして最強バディ・沢辺は見つかるのか?
このシリーズでは主に80年代の東京が描かれているが、六本木の夜の雰囲気などは、現代とさほど変わらないようにも見える。今読んでも色褪せない疾走感に満ちた作品だ。
『新宿鮫』で大ヒットメーカーとなる直前の、大沢在昌氏の原点とも言えるシリーズ、今こそぜひ触れていただきたい。