今年5月末に続き、盛夏の日本を飛び出して向かったのは、中国・上海。今回は同地で行われる「上海国際文学週間」にご招待いただいての訪問です。スピーチあり、サイン会あり、対談あり、観光ツアーあり、盛りだくさんだった旅の模様をレポートします。
(2024年8月12日~16日)
8/12(月)
お盆休みが近いとあって多くの人で賑わう関西国際空港で湊さんと待ち合わせて旅がスタートします。今回向かうのは中国・上海。「上海国際文学週間」が8月13日~19日まで開催されるにあたり、ちょうど『贖罪』の中国語版が刊行されたタイミングということもあってご招待いただきました。
お昼過ぎの飛行機で一路、上海へ。飛行時間はたったの2時間。あっという間に上海の浦東空港に到着しました。到着ゲートを出ると『贖罪』中国語版の版元「読客」の編集担当:張さんとライツ担当:季さんがお花をもって出迎えてくれました。手厚い歓迎に湊さんも大感激!
この日は、ホテルにチェックイン後、張さんと季さんに上海の伝統的な料理を食べさせてくれるお店に連れていってもらいました。上海の料理の特徴は甘辛い味付け。どこか日本の煮物を思わせる味わいに湊さん、スタッフ一同、舌鼓を打ちました。
夕食後は、上海の夜景が楽しめる外灘地区へ。右を向けばクラシカルな建物が、黄浦江を挟んで左を向けばイルミネーションで彩られた超高層ビル群が。新旧が向かい合わせになった圧巻の眺めにしばし見とれてしまいました。腹ごなしの夜の散歩をしつつ、闇夜に無数の光が浮かぶ街並みを楽しませてもらい初日は終了です。
8/13(火)
2日目はホテル近くのスーパーマーケットを見学したのち、上海国際文学週間の主催者がコーディネートしてくれた観光バスツアーに参加しました。日本からは辻村深月さんも招待されていたので、バスの隣に座って、楽しくお喋りしながら最初の目的地に向かいます。
まず到着したのは上海図書館。ここは中国で2番目に大きな図書館で地上7階建て。国内外の蔵書のほか、中国の歴史的な書物をはじめとした貴重な資料やオーディオブックを聴くことができる最新の施設など、「本にまつわる」あらゆる体験ができる施設でした。
つづいて向かったのが、長泊228街坊。ここは1950年代に地方から上海に働きに出てきた労働者のために作られた2000軒の住居が集まるコミュニティで、2023年4月に5年間をかけてリニューアルされ、住居、市場、レジャー、外食、緑地などがすべて徒歩15分圏内に集まる「15分間コミュニティーライフサークル」モデル地区になっている施設です。
最新のスマートタウンを見学したのち、施設内にあるカフェでアイスコーヒーをご馳走になって、ふたたびバスに乗車します。ホテルに戻って、周辺の散策をしたのち、ブックフェス主催者が用意してくださった夕食会場へ。辻村さんご一行も一緒に楽しく夕食を済ませたあとは、上海国際文学週間の開会式に出席するため歴史を感じさせる荘厳な雰囲気溢れる「中国証券博物館」へ。エントランスには、招待されている作家の顔写真と名前が並べられたパネルが。湊さんの写真は右上の一番隅にありました。
午後6時すぎからはじまった開会式は、アメリカ、ロシア、フランスやアンゴラ、ハンガリー、マレーシアなど世界各国から招待された作家26名がそれぞれ「物語の境界」というテーマで5分間のスピーチをしました。
湊さんのスピーチは「正義の境界」について。物語を通して、私たちが日常生活では越えないようにしている「正義の境界線」を越え、罪を犯してしまった登場人物に触れることによって、気づきを得ることができ、また自分にも「悪意」があることを認識することができる、というようなお話をされていました。スピーチ終了後には、マレーシアから招待された作家さんから「あなたのスピーチが素晴らしかった」と声をかけられるなど、国境を越えた作家同士の交流もできた貴重な機会になりました。
8/14(水)
到着してから、ずっと晴天が続いている上海。3日目も朝から陽射しが強いなか、上海の代表的な観光地である「豫園」を見学しました。ここは明代に作られた庭園で、周辺にはお土産物店が数多く軒を連ねています。園内は清代に建てられた建築物がそのまま残っていたり、優雅に鯉が泳ぐ池があったり、どうやって運んだのか、と思うような巨石があったりと見どころ満載。湊さんはナビゲートしてくれた読客のスタッフの説明に耳を傾けながら、興味深そうに庭園を見学されていました。
昼食を挟んで向かったのは、『贖罪』の中国語版を出版してくださった読客さんの本社ビル。一体がビジネス街になっているそうで、キレイなビル街のなかに本社はありました。車を降りると、さっそく「湊佳苗老師 歓迎」の看板が! 近寄っていくと、ビルの中から読客さんのマスコットキャラであるパンダが登場! なんとも嬉しいサプライズに湊さんも大喜び。パンダの案内(?)で社内を見学させてもらいました。読客さんは若い会社で、社員の平均年齢は29歳ほど、しかもその9割近くが女性とのことで、社内は華やかな活気に満ちています。
読客さんを訪れたのは表敬訪問だけが目的ではありません。上海の文学系podcastにゲスト出演するため、読客さんの会議室をお借りして収録にのぞみました。作品の内容から、作家としての仕事についてなど、湊さんご自身のことや作品について、かなり深掘りした質問に真剣に答えていく湊さん。1時間に及ぶ濃密な収録を無事に終えることができました。
読客本社をあとにして向かったのが、この日のメインイベント、上海の書店さんでのサイン会。ショッピングモール内にある「西西弗(シシフ)書店」さんが会場です。すでに書店には入りきれないほどの参加希望者たちが集まっています。参加者からの質問タイムのあと、サイン会がスタート。当初150人ほど、ということでしたが、参加希望者が殺到したことで、湊さんのご厚意もあり、書店さんの営業時間内ならサインをする、ということに。結果、一人2冊までOKで300人、計600冊にサインし、なんとか営業時間ギリギリで終了。熱心なファンが多く、なかには日本語版『告白』の単行本、しかも初版本を持参したファンがいたほど。日本語を勉強して手紙を書いてきた人や、日本語でのメッセージを伝えてくれた方など、中国での湊かなえ人気を肌で感じることができたサイン会になりました。
8/15(木)
この日は朝から書店訪問です。まずは「世界一高いところにある書店」として有名な朶雲書店へ。「中国一高いビル」である上海センタービルの52階にあり、海抜239メートルから上海の街並みが一望できるということで、見学者が殺到し、予約しないと入れない書店としても有名だそうです。こちらの書店員さんに案内していただき、店内を見学。そして展望テラスで珈琲をいただきながら、眼下に広がる上海の絶景を堪能させてもらいました。
続いて向かったのが日系書店の「蔦屋書店」。こちらは、日本人作家の翻訳本はもちろん、原本である日本語版も数多く陳列されていました。もちろん、湊さん作品もしっかり置いてありましたよ。
午後は、いよいよ上海国際文学週間のフェア会場へ。読客さんの展示エリアをはじめ、各出版社が販売ブースをもうけていたのですが、平日にもかかわらず会場は超満員。上海の人たちの本に対する関心の強さを印象づける光景でした。
会場を一巡したあとは、夕方から予定されている「中国の東野圭吾」という異名を持つ紫金陳さんとの対談へ。対談前に顔合わせを兼ねて食事をご一緒したのですが、お互いにお土産を渡し合い、それぞれの作品について感想を語りあうなど、とても和やかな雰囲気でした。
お二人が打ち解けたところで、対談会場へ。すでに会場には300人の読者が席を埋めています。参加したいけど、定員で入れなかったファンが会場前に詰めかけて「せめてサイン会だけでも参加させてください」と運営サイドに交渉するという事態も(こちらも湊さんのご厚意で、皆さんサイン会に参加できました)。笑いが絶えない賑やかな対談に読者たちも満足顔。その後のサイン会も350人ほどが参加して、長い列を作っていました。上海のテレビ局なども取材に訪れ、翌日、色々なメディアで紹介されていたと現地の方からうかがいました。これにて上海での全日程を無事に終えることができました。サインは2日間で650名900冊。これはもちろん、湊さんのサイン会人数、新記録! 4日間、アテンドしてくださった読客の皆さんと上海国際文学週間の運営スタッフの皆さんに感謝感謝です。
8/16(金)
いよいよ上海最終日。日本は台風9号が近づいてきていて、関東は飛行機が欠航、新幹線が運休など心配なニュースが入ってきていましたが、湊さん一行が向かう関西国際空港は幸い台風の影響がないようで予定どおりのフライトになりそうとのことでほっと胸をなで下ろします。
最終日も読客の張さん、季さんにアテンドしていただき、浦東空港へ向かいます。大きなトラブルもなく、すべて順調に予定をこなせたのは、本当にこのお二方のおかげです。日本に留学していたという張さんは「学生の頃から湊さんのファンで、編集者として担当ができたのは夢のようです」と出発ゲート前で湊さんに御礼とお手紙を渡して、季さんも含めて、3人で記念撮影。最後は3人とも惜別の涙にくれながら再会を誓い、湊さんは出発ゲートをくぐって機上の人になりました。
4泊5日。長いようであっという間の上海出張でしたが、インドネシアと同様、ここでも小説が好きな人たちと交流し、たくさんのファンの方とふれ合い、読書文化がどう育まれているのかを知る有意義な旅になりました。
5月に訪問したインドネシア同様、今回の上海出張も中国の読者の小説に対する熱を感じることができる本当に貴重な機会になりました。招待いただいた上海国際文学週間の主催者の皆様、5日間、つきっきりでアテンドしてくださった張さん、季さんはじめ読客の皆さんに心より感謝申し上げます。湊さんも「上海が大好きになりました」とおっしゃっていたので、また再訪できる日がくることを願うばかりです。