現実の日本政治に鉄槌を下すような緊張感ある政治エンターテインメント小説が誕生した。謎のテロリスト集団が衆院本会議場を占拠し裁判を始める。首謀者「コッカイくん」が最新のポリグラフを駆使して国会議員の欺瞞を見破り、裏金問題、カルト宗教との癒着、公文書かいざんを厳しく尋問。その様子を全世界に生中継して、悪徳政治家の嘘を白日のもとに晒して処刑を実行していく──。
「小説推理」2024年10月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューで『処刑国会』の読みどころをご紹介します。
■『処刑国会』沢村鐵 /細谷正充 [評]
国会を占拠したテロリスト集団が、疑惑の与党議員たちを、国民参加のネット投票で裁く。沢村鐵の過激な政治エンターテインメントが、民主主義の根幹を問う。
政治家の国会答弁を見て、イライラしたことはないだろうか。社会の大きな話題となった疑惑や不正を問われても、のらりくらりとした答弁を繰り返す。公文書の改竄を始め、どんな手を使っても追及から逃げる。このような醜悪な人間が国を動かしているのかと思うと、頭に血が上る。そんなときこそ、本書の出番だ。警察小説や現代ダーク・ファンタジーのシリーズで知られる作者だが、とんでもない政治エンターテインメント・ノベルを上梓してくれたのだ。ただしこの作品、撃つのは政治家だけではない。
臨時国会の初日、謎のテロリスト集団により、衆院本会議場が占拠された。首謀者らしき人物は、国会のゆるキャラ“コッカイくん”の仮面を被っている。コッカイくんは最新のポリグラフなどを持ち込み、疑惑の議員たちに質問。その結果をリアルタイムで、ネット中継した。さらに国民裁判と称し、ネットを見ている人々に、どのような判決を下すかを託す。その結果、議員たちが、次々と処刑されていくのだった。
本書には何人かの主要人物がいる。はみ出し者の公安刑事・幡多充。元刑事で、今は二回生議員の秘書をしている知念拓海。英国のオピニオン誌記者の、ウェンディ・キーナン・波佐間。臨時国会を見学していた、硬骨のジャーナリストの春宮唯士。それぞれに関係のある4人が、途方もない事態に向き合うことになる。
この中で特に注目したいのが、記者のウェンディだ。テロリストが通信を禁じていないので、旧知の春宮と連絡を取りながら、ネット中継を見続ける。日本の政治に不信感を持っており、コッカイくんの主張にシンパシーを抱きながら、その気持ち自体を危惧する。ああ、ウェンディの心の動きはよく分かる。なぜなら私も、コッカイくんの主義主張に同意したくなってしまったからだ。
だからこそ、裁判にかけられた議員たちの醜態が愉快痛快だ。しかしコッカイくんは、そんな議員たちを批判しながら、実際には何もしない国民や、きちんと疑惑を追及できないジャーナリストも剔抉する。テロリストは、この国のすべての人に、民主主義の根幹を問いかけているのだ。そこが本書の凄いところである。
また、予想外の展開も特筆もの。中盤でテロリストの正体が分かり、幡多たちが国会に突入すると、状況は二転三転。次々暴かれる事実に、驚きが止まらない。メチャクチャに面白く、深く考えさせられる作品だ。