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 謎のテロリスト集団が衆院本会議場を占拠。首謀者「コッカイくん」が与党議員を最新の嘘発見器を用いた裁判にかけ、裏金問題、カルト宗教との癒着、公文書かいざんを厳しく尋問。その様子を全世界に生中継して、悪徳政治家の嘘を白日のもとに晒して処刑を実行していく──。まるで現実の日本政治に鉄槌を下すような緊張感ある政治エンターテインメントが発売早々話題を呼んでいる。著者の沢村鐵さんに作品に込めた思いを聞いた。

 

──物語は3つの視点で進んでいきます。下っ端与党議員の秘書・知念拓海、その友人で警視庁公安部の捜査員・幡多充、イギリスのオピニオン誌の女性特派員・ウェンディ・キーナンです。テロリストと対峙するのは公安刑事の責務だし、国会議員側の視点として知念の役割はとても大きい。知念は警視庁捜査一課の刑事から議員秘書に転職した異色の経歴の持ち主。幡多とは警視庁入庁の同期ということもあり、二人はひそかに連絡を取り合って未曾有のテロの解決に奔走します。このコンビが物語を熱くさせているのですが、外国人特派員のウェンディをメインキャラクターに加えたのはどうしてですか?

 

沢村鐵(以下=沢村):外国人ジャーナリストたちには、この国の政治が相当、異様に見えているようです。たとえば、マスメディアが政治家たちに対して厳しい追及をしない。与党の言い分を垂れ流す“広報機関”に成り下がっているように見える。“報道の自由度ランキング”で先進国にあるまじき下位(70位、2024年5月の最新順位)に沈んでいるのも当然だと。ジェンダーギャップランキングでも、賃金の伸び率でもG7の中でぶっちぎりの沈み方をしているのは、国家運営に致命的な歪みがあるからだと考えるのは当然でしょう。与党の腐敗の実態がどんどん露わになっているのは、いわば当然の帰結と見ている。

 ところが、ずっとこの国で生まれ育って、権力者のあくどさに慣れてしまうと実感が難しい。我々はみんな“ゆでガエル”なんじゃないでしょうか。彼女の視点を入れることで、この国の「常識」がいかに非常識か。我々がどれほど異常な時代を生きているかが浮き彫りになる。そのためにウェンディは必須の存在でした。幡多は公安刑事でありながら、権力側のためにばかり仕事をさせられることに疑問を持っている。刑事を辞めて与党議員の秘書に転身した知念は、そもそも沖縄出身。その内面には、かなり複雑なものがあります。そこに加えて、日本人男性と結婚した英国人記者のウェンディ。3人ともに複雑な立ち位置で“国難”に立ち向かうことになります。どうか読者のみなさんにも、彼らを応援してほしいです。この3人の中に、きっとあなたの現し身もいます。

 

──最新のポリグラフを駆使した鑑定結果をリアルタイム中継で公表し、大物与党議員の嘘が明らかになっていきます。ここまで腐りきった政治家がいまだに特権的な国会議員であり続けているのは現実もそう違いはないと思いますが、どうして日本の政治家はこんなに国民を欺くようになってしまったんでしょうか?

 

沢村:おそらく、権力者というものは、放っておくと必ず怪物になるのだと思います。「放っておく」というところがポイントで、私たちの国の人たちは、とにかく「放っておく」のが得意です。自分のせいじゃない。知らない。関わりたくない。そうやっていると、たぶんどこの国でもこうなってしまう。これが社会実験だとしたら、古くて新しい真理が一つ、証明されているだけ。とも言えると思います。

 

──物語は後半に入り、政治家の「嘘」だけではなく、テロリスト側の「嘘」によって景色が一変します。ネタバレになるのでこれ以上は明かせませんが、人類史上はじめての革命になったと言っても過言ではありません。この展開は初めから決まっていたのでしょうか?

 

沢村:書きながら悩み、迷いつつも、やがて一つの道に定まりました。いわば、この物語だけではありません。沢村鐵の物語世界の全てで追い求めてきた“道”に沿っていけば、この展開は必然でした。すみません、まだ読んでいない人には全く意味が分からない話ですが(笑)。この本を読んで興味が湧いたら、ぜひ、沢村の他の本も手に取ってみてください。よろしくお願いします。

 

──本作をどんな人に読んで欲しいですか? 

 

沢村:どなたでも構いません。読んでいただけたなら、それはご縁があったということでしょう。それがどんな年代、どんな立場の方であったとしても、ひとたび読んでいただけたならあなたは仲間です。革命の志士です。コッカイくんのグループの一員です。そしてあなたはその日から、革命のために行動を起こすでしょう。それが広がっていけば、いつの間にかこの国はひっくり返る。これはそういう本です。エンターテインメントとして楽しみながら、ぜひ、大それた転覆計画も楽しんでいきましょう!(笑) 私はみなさんに期待しています。

 

【あらすじ】
前代未聞の国会議事堂封鎖! 謎のテロリストが衆議院議員全員を裁判にかけ、この国の腐りきった政治の真を問う——。臨時国会初日、所信表明演説の最中に首相が突然倒れてしまう。救急隊員がすぐに駆けつけたが、その正体はテロリストだった。異形の集団が衆院本会議場を占拠し、議員全員の国民裁判を始める。裏金問題、カルト宗教との癒着、原発問題など、与党の政治家はこれまでの疑惑をどう説明するのか。果たして嘘をついていないのか。謎の首謀者「コッカイくん」が当事者議員を尋問し、最新のポリグラフを駆使した科学鑑定結果を公表。全世界生中継の状況下でネット投票による判決を下す。幹事長をはじめとした与党大物議員に次々と死刑判決が下されるなか、警視庁公安部の幡多充はテロリストの正体を探り、突入の準備を進める。警察学校同期で元捜査一課刑事の知念が与党議員の秘書となり、議員控室に閉じ込められているのを知った幡多は連絡を取り、情報収集を試みる。稀代のテロリスト「コッカイくん」の目的はなんなのか? 史上最大の封鎖劇は想像を絶する結末が待ち受けていた。