謎のテロリスト集団が衆院本会議場を占拠。首謀者「コッカイくん」が与党議員を最新の嘘発見器を用いた裁判にかけ、裏金問題、カルト宗教との癒着、公文書かいざんを厳しく尋問。その様子を全世界に生中継して、悪徳政治家の嘘を白日のもとに晒して処刑を実行していく──。まるで現実の日本政治に鉄槌を下すような緊張感ある政治エンターテインメントが発売早々話題を呼んでいる。著者の沢村鐵さんに作品に込めた思いを聞いた。

 

──本作はとてもわかりやすいストーリーです。タイトルの『処刑国会』が物語のすべてと言っても過言ではないと思いますが、これまでにないセンセーショナルな作品となりました。ここまでダイナミックなエンターテインメントに徹しているのは、沢村作品としては初めてではないでしょうか?

 

沢村鐵(以下=沢村):そうですね。ここまで直情的なものは初めてかも知れません。物語が生まれて、書き出すまでがこれほど早かったのも初めてかも知れません。嵐がやってきて、ただ巻き込まれたかのような……自分でも呆気にとられています。

 

──テロの首謀者「コッカイくん」が証言台に上げるのは与党の大物議員ばかり。現実の日本政治でも、自民党の裏金問題、統一教会との癒着、モリカケ問題など、かつての政権から続く負の遺産が本作のモチーフとなっていますが、そのあたりは著者としてどういう思いを込めたのでしょうか?

 

沢村:フィクションを超えて悪夢のような、これほど酷い与党の実態や、犯罪が明らかになりながら、多くは議員辞職もせず、平気の平左で国家の運営をしている。あり得ない現実を、なすすべもなく見せつけられる。つまり、この国の人たちはみんな、毎日、同じ悪夢を見ているのだと思います。そこから醒めるために、もがく必要がある。死活問題だと感じました。表現者の端くれとして、「自分にできることは何か」「尊敬する“炭鉱のカナリア”の先輩たちに、任せっきりにしているわけにはいかない」そんな焦りと使命感が、どうにか形になりました。

 ちなみに炭鉱のカナリアとは、まだはっきり目に見えていない危険に対して、最初に警鐘を鳴らす存在のことです。政治の話題や、地位の高い人を批判することを避ける人がほとんどの中で、勇気を持って発言を続けている人たちは確かにいます。テレビの電波にはなかなか乗りませんが、ラジオ、新聞、雑誌、そしてSNSで発信している作家の方々。音楽家や映像作家、記者、評論家、芸能人にも。もちろんご自身の作品や、立ち上げたイベントなどでもしっかり声を上げている。本当に勇敢な方々が、探せばちゃんとこの国にもいます。それは私たちの希望です。

 

──コッカイくんは「テロ」という民主主義とは正反対の、もっとも暴力的な方法で政治を変えようとします。地方自治体のゆるキャラのようなかぶり物をして、ユーモラスな語り口で、議員を断罪していく。本会議場占拠という史上最大の封鎖劇に「ふさわしくない」テロリストですが、まるでコメディアンのようなコッカイくんの明るいキャラクターによって物語がテンポよく進行していくのが面白いですよね。このあたりは著者の狙いだと思いますが、キャラクターに込めた思いを教えて下さい。

 

沢村:同じ表現者として大きく捉えたときに、芸人さんたちに対するリスペクトは凄く高いです。笑いには、一瞬で全てをプラスにひっくり返す力がある。ハードな状況でもしっかり機能する、いわば魔法です。ただ、この国にはたぶん、本物の芸が足りない。真のコメディアンは社会批評も恐れないはずです。この国特有の同調圧力や“忖度”に負けず、権力者にもしっかり牙を剥く真の芸人を描いてみたい。そんな夢も叶えたかった。だからコッカイくんとその仲間は、理想の芸人集団というわけです(笑)!

 

(後編につづく)

 

【あらすじ】
前代未聞の国会議事堂封鎖! 謎のテロリストが衆議院議員全員を裁判にかけ、この国の腐りきった政治の真を問う——。臨時国会初日、所信表明演説の最中に首相が突然倒れてしまう。救急隊員がすぐに駆けつけたが、その正体はテロリストだった。異形の集団が衆院本会議場を占拠し、議員全員の国民裁判を始める。裏金問題、カルト宗教との癒着、原発問題など、与党の政治家はこれまでの疑惑をどう説明するのか。果たして嘘をついていないのか。謎の首謀者「コッカイくん」が当事者議員を尋問し、最新のポリグラフを駆使した科学鑑定結果を公表。全世界生中継の状況下でネット投票による判決を下す。幹事長をはじめとした与党大物議員に次々と死刑判決が下されるなか、警視庁公安部の幡多充はテロリストの正体を探り、突入の準備を進める。警察学校同期で元捜査一課刑事の知念が与党議員の秘書となり、議員控室に閉じ込められているのを知った幡多は連絡を取り、情報収集を試みる。稀代のテロリスト「コッカイくん」の目的はなんなのか? 史上最大の封鎖劇は想像を絶する結末が待ち受けていた。