機能不全家族やカサンドラ症候群、ヤングケアラー……。現代の社会現象を絡めながら、ある家族の歪なつながりを描いた『骨と肉』。映画化で話題となった『死刑にいたる病』の著者・櫛木理宇氏による、連続死体遺棄事件の謎を追うサスペンスミステリーです。
「小説推理」2024年9月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『骨と肉』の読みどころをご紹介します。
■『骨と肉』櫛木理宇 /大矢博子 [評]
20年前の連続殺人事件が現代に蘇った? 時を超えてふたつの事件を結びつけたのは、ある家族の歴史だった……。サスペンスの巧手が送り出す戦慄の一作。
不気味だし不穏だし、読んでる間じゅうずっと胸の底の方がざわざわしてるし、このまま進めばなんかとんでもないものが飛び出てきそうな確信があってそれが怖いのに、読むのをやめられない。まったく、何てものを書いてくれたんだ櫛木理宇。
話の始まりからして不穏である。プロローグは幼い少年3人が無惨な死体を見つける場面。ついで19世紀に実在した結合双生児、ブンカー兄弟の短いエピソード。その次は2000年8月の日付がある、犯人らしい人物による殺人の記録日記。次の場面で、母親からの愚痴の電話にうんざりしている刑事が登場してきたときにはやっと、「知っている世界」に戻ってきた気がしてほっとした。
この刑事──八島武瑠が主人公である。管内で女性の惨殺死体が発見され、その捜査にあたっている。ところが同一犯と思われる殺しが再び起きた。被害者たちの遺体に、20年前に三鷹で起きた連続女性遺体遺棄事件と共通する特徴を発見した武瑠。時を経た同一犯なのか? ところがそんな時、武瑠の従弟・願示が衝撃的な知らせを持ってきた。20年前の事件は願示の双子の弟・尋也が犯人だというのだ。尋也はすでに亡くなっているが、証拠の日記もある。では今回の事件は模倣犯なのか……?
猟奇殺人を追う警察小説かと思いきや、物語は一族の過去へと切り込んでいく。「知っている世界」に戻ってほっとしている場合じゃなかった。武瑠は妻との間に何かわだかまりがあるらしいし、3週間前には上司から休暇を勧められるほどの出来事があったらしい。願示との会話にも何か含みがある。至るところに爆弾の気配を潜ませながらもそれが何かわからないという、ジリジリするような筆運びが櫛木理宇は本当に上手くて腹が立つ。
だからこそ、さまざまなことが少しずつつながっていく驚きと快感がたまらないのだ。見えそうで見えなかったものが突然鮮やかに眼前に現れたときの、それまで膨れ上がっていた焦燥感がはじける感じと来たら!
いや、快感という言葉はそぐわない。ここに浮かび上がるのは、猟奇殺人犯を生むに至った家族の歪みだから。血が繋がっているからこそ逃れられない呪縛がある。だが最大の問題は、それをあきらめて受け入れてしまうことなのだとこの物語は告げている。蓄積された歪みが音を立てて崩壊するクライマックスは圧巻。だがそのあとには希望が残る。最後まで計算されたサスペンスだ。