コロナも落ち着いた2024年5月、インドネシアのマカッサルで行われるブックフェスティバルに湊かなえさんがご招待されました。インドネシア訪問は昨年9月にジャカルタで行われたブックフェス以来、2回目。短いスパンでの渡航となりましたが、今回はジャカルタからさらに飛行機で2時間半かかる地方都市でのブックフェス。その模様をお届けします。(2024年5月22日~27日)

 

 

5/22(水)
お昼頃発の飛行機でインドネシアに向かいます。ジャカルタにある空港に到着したのは現地時間で午後6時頃。到着口では現地の出版社「ハル出版」のアンドリーさんとダビットさんが出迎えしてくれました。アンドリーさんは編集者でありながら湊さんの『告白』や宮沢賢治『銀河鉄道の夜』などをインドネシア語に翻訳している翻訳者でもあります。もちろん日本語もペラペラ。お二人に連れられて、まず向かったのはジャカルタのショッピングモール。ここで「バティック」というインドネシアの正装を買うことに。昨年の「『告白』300万部突破記念サイン会ツアー」でも各地のシャツを着てサイン会をしていたので、今回もそれにならいました。湊さん、スタッフ、それぞれ好みのものを購入し、この日はジャカルタ泊。

 

アンドリーさん(右)、ダビッドさんと

アンドリーさん(右)、ダビッドさんと

 

 

 

5/23(木)
朝の飛行機でマカッサルに向かいます。当日はインドネシアの4連休初日ということで機内は満席でした。到着したのはお昼前。さっそくアンドリーさんが事前に調べてくれた「牛肉のソト(スープ)」の専門店へ。「マカッサルに行くなら絶対オススメ」と数人に言われたそうで、俄然、期待が高まります。お店はお昼時とあって混雑していましたが、運良くすぐに座れました。メニューはひとつだけ。「牛肉だけ」か「ホルモン入り」かだけを選べたので、湊さん以下スタッフは、全員「ホルモン入り」を選択。供されたスープは噂に違わぬ美味! ホルモンにはまるで臭みがなく、スープもライムを入れて味変、サンバル(現地の辛味調味料)を入れて味変、と3度楽しめました。湊さんも「今までのインドネシア料理で一番好きかもしれません」とご満悦でした。

 

美味だった「牛肉のソト」

美味だった「牛肉のソト」

 

夜はブックフェスの前夜祭に参加。会場はオランダ領時代、東インド会社が造った施設だそうで、歴史ある建物は荘厳そのもの。会場内ではマカッサルがある島の伝統的な踊りを見学したり、実行委員の皆さんの挨拶や朗読する詩を聞いたり。会場には出店なども出ていて、フェスティバルにふさわしい賑わいを見せていました。

 

マカッサルのある地方の伝統的な踊りも見学

マカッサルのある地方の伝統的な踊りも見学

 

5/24(金)
この日からいよいよフェスティバルスタートです。初日に買ったバティックを着て会場に向かいます。午前中は湊さんが講師となるワークショップ。参加者はすでに作家デビューしている方や作家を志している人。事前に「家族」という言葉で思い浮かぶ単語を30個あげてもらい、それを見ながら湊さんが講義をしていきます。

前半は「テーマの決め方」と題して、湊さんがふだん、どういう発想で小説のテーマを決めているか、という話をしていきます。参加者はメモをとったり、うなずいたり、真剣そのもの。ひとつの単語から思い浮かぶ30の言葉を書いてもらった意図については、「最初からテーマをひとつだけ決めてしまうと、頭の中の引き出しから一番取り出しやすいものを出してしまいます。だけど、引き出しの奥には自分でも忘れていたり、気づいていない魅力的なものが隠れているかもしれない。一度、頭のなかの引き出しを全部空にしてみましょう」と解説し、参加者が上げてくれた言葉の中から湊さんが印象的だったものを選んで講評しました。

後半の「プロットの作り方」を講義するまえに、そのウォーミングアップとして「母親」という言葉で思い浮かぶ単語を湊さん、スタッフ、参加者が順番にひとつずつ挙げていきます。自分では思いつかない言葉がたくさん出てきて、発想の広がりが人それぞれ、とても多様性があることがわかりました。

それをふまえて後半は「プロットの作り方」です。ウォーミングアップのテーマが「母親」だったこともあり、湊さんの著書で昨年映画にもなった『母性』をどのように産み落としたかを説明しました。テーマを選んだ理由、そこから書き出しはどうするか、物語を面白くするアイテムの見つけ方や視点の選び方など、数々のベストセラー作品を世に出した湊さんの「頭の中」が次々に詳らかになっていきます。もちろん、参加者は一言も聞き漏らすまいと真剣に話を聞いていました。

最後は実際に参加者にプロットを作ってもらいます。自分で設定したテーマをもとに、小説作品のプロット作りをしてもらい、それを発表。男性がスカートを穿いている状態で死んでいて、その横には口紅と男性の妻の写真がある。妻は記憶喪失になっていて……など、読んでみたい! と思わせるようなプロットもあり、ワークショップは大盛り上がりでした。その後、会場横で即席のサイン会も開催。参加者たちは付箋がたくさん貼られた『告白』や『少女』『贖罪』『夜行観覧車』『母性』のインドネシア語版をもって列に並び、湊さんと写真を撮るなど大いに交流を楽しんでいました。

 

真剣に話を聞く参加者たち

真剣に話を聞く参加者たち

 

 

 

5/25(土)
フェスティバル2日目は、午前中がオフだったため市内を観光。豪華なモスクを見学したり、マカッサルの伝統的な住居を見たり、と充実の時間を過ごしました。

 

きらびやかなモスクを見学

きらびやかなモスクを見学

 

 

午後は湊さんの講演会。ダビットさんが司会、アンドリーさんが通訳として参加しました。会場は立ち見も出るほどの超満員。まずは冒頭、湊さん自ら『告白』の一部を朗読します。森口先生が生徒たちを前に、娘である愛美がこのクラスの生徒によって殺されたということを告白するシーン。アンドリーさんが通訳しながら朗読していきます。緊迫感溢れるシーンだけに会場は張り詰めた雰囲気に。湊さん自らが朗読するのはご自身初めての体験ということで、我々スタッフも貴重なシーンを拝見させてもらいました。

その後は、Q&Aということで、ダビットさんの代表質問のあとに参加者が次々と手を挙げていきます。「最初からイヤミスを書こうと思っていたのですか?」や「作家をやめたいと思ったことはありますか?」「人の心の暗部を描くとき、妥協したりはしませんか?」など活発な質問が寄せられ、そのひとつひとつに湊さんが丁寧にお答えになっていたのが印象的でした。

 

丁寧に質問に答える湊さん

丁寧に質問に答える湊さん

 

 

講演会終了後は、連日の即席サイン会。こちらも多くの人たちが列を作ってくれて、ハル出版さんが会場即売用に用意していた湊さんの作品は完売したとのことでした。中には日本語版を持ってきてくれた方もいて、湊作品が確実に海を渡って色々な方の手に届いていることが実感できる時間でした。

 

サイン会には長蛇の列が!

サイン会には長蛇の列が!

 

 

この日の夜はマカッサル近郊の書店員さんや読書サークルの方々との交流会に参加。書店員さんがどういう工夫をして本をオススメしているか、読書サークルの人たちの活動内容など、興味深い話をたくさんうかがいました。

 

 

 

5/26(日)
名残惜しいですが、マカッサルからジャカルタに戻る日です。ホテルの1階ロビーにはブックフェスの実行委員の大学生たちが集まって見送ってくれました。午後、ジャカルタに到着したあとは、昨年9月に訪問して印象的だったカフェへ。日本人観光客だけだったら絶対に怖くて入れない路地裏を抜けるとお洒落なカフェがあらわれます。連休中とあってお店は混んでいましたが、美味しい珈琲をいただき、空の旅の疲れを癒やします。その後は、ジャカルタ市内の紀伊國屋書店や現地の大型書店を見学。湊さんの作品もしっかり陳列されていました。夜はアンドリーさんとダビットさんにジャカルタ周辺の伝統的な料理を出すお店につれていっていただき、インドネシア最後の晩餐を楽しみました。

 

ジャカルタの書店にて。

ジャカルタの書店にて。

 

5/27(月)
最終日です。日本に戻る便が深夜の出発ということで、午前中は2年ほど前に新築なったばかりの図書館へ。モダンな雰囲気の建物の中は多くの書籍があるだけでなく、子供たちの知育の場やポッドキャストを配信するための部屋など面白い施設がたくさんありました。なかでも目を引いたのは入り口のエスカレーターを上がってすぐのところにあるボードに掲示してあった「犯人は誰か?」クイズ。手作りのミステリー小説の人物相関図が貼られていて、それぞれの関係性が付記されており、これを読んだ人は付属してある紙に「犯人の名前」を書く、というもの。「正解を知りたい人は◯◯◯という作品を読んでください」と書かれていて、面白い試みですね、と湊さんは感心しきりでした。

 

「犯人は誰か」クイズに挑戦

「犯人は誰か」クイズに挑戦

 

午後は昨年9月に湊さんが参加したジャカルタのブックフェス会場だった施設のなかにある書店や市場のなかにある書店を訪問。いずれの書店でもサイン本作りをお願いされ、快く引き受けていらっしゃいました。

長いようであっという間のインドネシア訪問。常に本や本好きとふれ合い、美味しいものをいただき、色々なところにつれていってもらいました。ハル出版のアンドリーさん、ダビットさんには感謝してもしきれないくらいでした。また、今回の訪問をサポートしてくださった国際交流基金ジャカルタ文化センターの三宅章太さんにも心より御礼申し上げます。