ほっこり丸顔、癒し系鮨職人が間借りしながら全国を回る痛快“すし小説”最新刊!
 自分のお店を持たず、間借り営業で全国を転々としながら鮨を握る雅代。ふだんは、のほほんと笑顔を絶やさないおばさんだが、迷える若者や道を間違えそうな料理人を前にするとさりげなく助けの手を差しのべる。そんな雅代の握る鮨と職人としての在り方に胃袋も心も握られてしまう人情鮨小説。

「小説推理」2024年7月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『同居鮨 間借り鮨まさよ2』の読みどころをご紹介します。

 

同居鮨 間借り鮨まさよ 2

 

 

■『同居鮨 間借り鮨まさよ2』原 宏一  /大矢博子 [評]

 

さすらいの鮨職人、雅代が帰ってきた! 今回、雅代と出会うのは、子どもとロックシンガーと鮨職人。悩める彼らを雅代の鮨は救えるのか?

 

 全国各地の飲食店に短時間だけ間借りして鮨屋を開く、その名も「鮨まさよ」。ぽっちゃり丸顔でのほほんとしたおばさんだが、腕は超一流だ。そんな彼女が満たすのは客の胃袋だけではない。問題を抱えた店主や悩んでいる客の心まで満たしてしまうのだ。

 客、というのがこの第二作のポイント。前作には飲食店の経営者や経営者候補の物語が3話、収録されていた。しかし今回は3話中2話が客の話なのである。

 第1話は、ベトナム出身の母と2人暮らしの小学生、舞衣が主人公だ。葬儀のためベトナムに里帰りした母が、期日を過ぎても戻ってこない。生活費にも事欠くようになったとき、子ども食堂で間借りしていた雅代に出会う。

 第2話はロック歌手のKAZの物語。バンドを解散してソロになる予定である。そのせいかファイナルツアーも今ひとつ足並みが揃わず、客の入りも悪い。そのツアーのケータリングとして店を出していたのが鮨まさよだ。

 ともに客の立場なので、前作のように主人公たちが経営者や料理人の心得を雅代から教わるという話ではない。ではなぜ、鮨まさよなのか? その答えが第3話でわかる。

 第3話は鮨屋の2代め夫婦の物語だ。父が倒れ、店を継いだ息子は客を呼ぼうと奇を衒ったメニューとパフォーマンス重視の劇場型高級鮨に改装したが評判は悪い。そんな夫を見て、妻は心配でたまらない。そんなとき、鮨まさよが間借りをすることになる。

 鮨屋が鮨屋に間借りということで、これまでになくその対比が映える。その店主のやり方ではだめだろう、というのは素人の読者にもはっきりとわかるのだが、では何が足りないのか。ひとりでできると思っていたことだ。

 第1話の舞衣は、クラスで孤立し人と関係を築くことを避けていた。母を探すのも人に頼れなかった。第2話のKAZは、自分はちゃんとやっているのにうまくいかないのは周囲のせいだと思っていた。つまり3人の主人公には、人は人とのつながりの中で生きているということを忘れていた、という共通点があるのだ。

 それをどんな方法で雅代が気づかせるかが読みどころ。客の物語が入ってきたことで、読者にとってもより身近に感じられる第2弾となっている。心に余裕がなくなると、頑なになったり人を責めたりというのは、誰にでも覚えがあるだろう。そんなときにぜひ読んでほしい一冊だ。心がほぐれること間違いなしである。