法では守れない正義がある。数々の冤罪事件、不正を強要され自死した官僚、裏金を還付金と言い張る政治家……。世に理不尽と不正ははびこり、庶民は歯噛みするか、諦観するしかない。だがもし、法の軛から外れ、巨悪に立ち向かう組織があったとしたら──。
あなたの日頃の無念と鬱憤を晴らす極上のアクション・エンターテインメント作品、それが『法外捜査』だ。
「小説推理」2024年6月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューで、『法外捜査』の読みどころをご紹介します。
■『法外捜査』石川渓月 /細谷正充 [評]
コンサルタント会社は表の顔。五人の男女が、法に縛られた組織にはできない“法外捜査”で悪党と対峙する。石川渓月の新シリーズ、堂々の開幕だ。
石川渓月は、2010年、『煙が目にしみる』で第14回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、ミステリー作家としてデビューした。しかし近年は、酒屋を舞台にした人情話「よりみち酒場灯火亭」シリーズにほぼ専念。もちろん面白い作品なのだが、このままミステリーから離れたら残念だと思っていた。だが、それは杞憂であった。ミステリーの新シリーズが2ヶ月連続刊行で始まったのだ。本書は、その第一弾である。
六本木に、『秀和』というコンサルタント会社がある。その実態は、法に縛られた組織では行うことの出来ない調査を行う非合法な組織だ。メンバーは5人。所長の来栖修は元警察庁キャリア、副所長の沼田信三は元公安警察官。調査員の滝沢征司・矢沢翔太・霧島冴香も、それぞれ元警視庁捜査一課の刑事・元交番勤務の警察官・元陸上自衛隊特殊任務部隊員である。どいつもこいつも訳ありだ。
ある日、新宿駅東口駅前の広場で爆破事件が発生。3人が死亡した。『秀和』を設立した警察庁刑事局の佐々倉剛志の依頼により、この事件の情報を集めることになった滝沢たち。しかし謎の組織「スサノウ」の魔手により、苦しい戦いを強いられるのだった。
死亡した3人の中に、元暴力団組長とその妻がいることに気づいた滝沢は、情報屋の角田を使い、行方の分からない元組員の橋爪を追う。冴香は、自衛隊時代の合同訓練で知り合った海兵隊員で、今は日本で諜報活動をしているジミーから、傭兵の情報を得る。ハッキングに長けた矢沢は、事件で使われた爆弾の正体を掴む。それぞれの能力や人脈を活かして、爆破事件に肉薄していく様子が、面白い読みどころになっている。ここから一気に、物語世界に引き込まれた。
だが「スサノウ」と呼ばれる組織により先手を取られ、滝沢たちの状況が悪くなる。出てくる敵も、化け物じみた強さを持っているではないか。意外な人物たちと共闘しながら、傭兵たちと戦うクライマックスまで、激しいアクションが堪能できた。
大きな騒動は落着したが、爆破事件の真相や、「スサノウ」の全容はまだ分からない。冴香が抱えている問題や、作中で匂わされている警察庁長官レースの行方も、どうなるか不明なままだ。だから次巻が待ち遠しい。このシリーズ、まさに“法外”な、エンターテインメント作品になりそうだ。