『コーヒーが冷めないうちに』『本を守ろうする猫の話』『森崎書店の日々』など、海外展開で成功する日本の小説が増えている。近年ヨーロッパ諸国では日本の翻訳小説の人気がますます広がりを見せているが、そこにはどのような背景があるのだろうか。

『人生写真館の奇跡』が20カ国以上で翻訳された柊サナカの新作『天国からの宅配便』も国内での発売後、ドイツから熱烈な出版オファーがあった。

 海外へ日本小説を紹介する販売エージェントのエミリー・チュアン(EMILY BOOKS AGENCY)と、本作のドイツでの版元となった出版社「HOFFMANN UND CAMPE VERLAG GmbH」で働く編集者カトリン・アエのふたりに、海外市場における日本の小説の動向について話を聞いた。

 

イギリス版『人生写真館の奇跡』

 

戦争やウィルスによって不安定になった世界が、日本の心温まる小説に深く共鳴する

 

──エミリーさんは日本小説を国外の出版社に紹介するエージェントとして働いていますが、今回、柊サナカさんの『天国からの宅配便』をヨーロッパの出版社に紹介しようと決めたのはなぜですか?

 

エミリー・チュアン(以下=エミリー):私が柊サナカさんの本を初めて読んだのは『人生写真館の奇跡』(宝島社)という作品でした。この作品は死ぬ前に自分の人生のスライドショー(走馬灯)を作成するという設定なのですが、人生の締めくくりの瞬間を描くというコンセプトとストーリー展開にとても魅了されて、これまで私はアメリカ、イギリス、ヨーロッパの23カ国で紹介しました。

 その次に読んだ柊サナカさんの作品が、この『天国からの宅配便』です。本作では、亡くなった友人や家族から最後の贈り物を受け取る人々が描かれています。今私たちの生きる世界は、戦争によって生活が危険にさらされたり、ウィルスの脅威によって愛する人と距離をとらなければならなくなったり、非常に不安定です。そんな時代に、本作は読む人の心に深く入り込みます。読後、私も自分が亡くなった後に親愛なる家族や友人のために何を残すだろうか、と考えていました。この物語は普遍的な魅力を持っていて、世界中の読者の心に深く触れると確信したので、紹介しました。

 

──西欧では今、どんなアジアからの翻訳小説がトレンドになっていますか?

 

エミリー:心温まる物語であることと、特にアジアの文化的要素が取り入れられた作品は、根強く西欧でトレンドとなっています。西洋の読者と強く共鳴しているんです。

 少し前の『コーヒーが冷めないうちに』(川口俊和 著/サンマーク出版)の海外展開での成功に続いて、『本を守ろうする猫の話』(夏川草介 著/小学館)、『森崎書店の日々』(八木沢里志 著/小学館)なども人気があり、柊サナカさんの『人生写真館の奇跡』や『天国からの宅配便』まで、その傾向は続いています。

 これらの作品に共通するのは、日本特有の文化的なニュアンスに、愛や喪失、救いといった普遍的なテーマを融合させ、国境や文化の違いを超越した物語を創り出していることです。世界中の読者が深く共鳴するような感動的で心温まる物語であると同時に、作品を通じてアジアの伝統と価値観の豊かさを西欧の読者は垣間見ることができます。

 

(後編)ドイツでの版元となった出版社で働く編集者カトリン・アエのコメント

 

【あらすじ】
大切な人へ、あなたが最後に贈りたいものは何ですか? 依頼人の死後にしかるべき人の元へ遺品を送り届ける「天国宅配便」で働く七星律は、今日もバイクで配達先へ向かう。友人たちに先立たれた孤独な老女、祖母と喧嘩別れした女子高生、幼馴染みと結ばれなかった中年男、顧問の先生を喪った部活仲間……。会えなくなった人から届いた思いがけない小包みの中身とは? 言いそびれた言葉と伝えられなかった想いにきっと涙があふれる。今を生きる力が湧いてくる感動作、待望の文庫化!

 

質問に答えてくれた人:エミリー・チュアン/海外ライセンス販売エージェント
EMILY BOOKS AGENCY http://www.emilybooksagency.com/index.aspx