川上弘美『某』、藤野可織『私は幽霊を見ない』、宮部みゆき『魂手形 三島屋変調百物語七之続』『よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続』などの装画でもおなじみの、不思議なフォルムの生き物や、小さな黒い丸だけで目が表された特徴的な人物……。「ああ、あの絵!」と思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。書籍の装画や挿絵を多数手がけるほか、さまざまなグッズにイラストを提供するなど、その活躍に注目が集まる人気イラストレーター、三好愛さん初のエッセイ&イラスト集『ざらざらをさわる』が文庫になりました。文庫化を記念し、三好愛さんにお話を伺いました。

 

前編はこちら

 

「私にはこんないろいろがあった、あなたはどうですか?」みたいな気持ちで

 

──本書には33編+書き下ろし5編の「ざらざら」が収められていますが、三好さんが言葉に表したくれたことで、「そうそう!」と共感することもあれば、「三好さん、それはちょっと考えすぎでは……」と思ってしまうことも。まるで、気が置けない友人のおしゃべりを聞いているようです。

 

三好愛(以下=三好):そうですね、感想としては共感したと言われることもあれば、共感できなかったと言われることも多いかも……。書くときは、あまり共感を誘う前提では書いていなくて、「私にはこんないろいろがあった、あなたはどうですか?」みたいな気持ちで書いていました。

「共感した」という言葉って、言うほうも言われるほうも捉えかたがなかなか難しいですよね……。人が生きる上で何かを感じるときって、とても細かい感情のつみかさねがあるはずで、「共感した」と言ってしまうとそういう細かいつみかさねをないがしろにしてしまう気もします。

 

──イラストも各エッセイにつき1点ずつ、あわせて33点+描き下ろし5点が収められています。一冊に三好ワールドがぎゅっと凝縮されています。描き分けなどご苦労もありましたか?

 

三好:もともと本の挿絵を描くのが大好きなので、イラストは苦労してないかもしれません。文章はかなり時間をかけて書いていますが、文章を書き終わったら、文章を書いた自分とは別の自分が出て来て、客観的に文章を眺め、どこをモチーフにしようかな、と楽しく描きました。

 

──塾での集中方法を紹介する「じょうずに集中」や、マクドナルドとの関係を描いた「気づけばそこに」、星新一の小説に魅了されていた頃を回想する「名前をうばう」など、子供時代の「ざらざら」もたくさん登場しますね。三好さんは、どんなお子さんでしたか?

 

三好:うーん、今日は誰かに嫌われていなかったか常に気にする子供でした。絵が好きかも、と思うようになってから少し変わったんですが、子供時代はひたすら主体性がなく、自信もなかった記憶があります。

 

──三好さんは、美大のご出身ですが、大学時代に学んだことは現在のお仕事にどんなふうに結びついてますか? もしくは、専攻とはまったく異なる道を?

 

三好:専攻は油絵と版画だったので、技術的には今しているイラストの仕事に結びついていると思います。ただ、大学の教育は現代美術の歴史に名を残せる人を数年で1人出せれば良い、みたいな感じだったので、商業的なイラストレーターになるにはどうしたら良いかよくわからず、卒業後、自分の生きやすい場にたどりつくまでかなり模索しました。

 

──文章とイラストでは、手がけるにあたっていちばん大きな違いは何でしょうか?

 

三好:そうですね……モチーフは根本的に同じ気がするんですが、見てもらう/読んでもらう人との距離感が違うかもしれないです。文章のほうが近いというか、親しみをこめて書きがちです。絵はもうちょっと遠くまで届けている感覚があります。

 

──今後も、イラストのお仕事と並行して、文章のお仕事も積極的に挑んでいただきたいと思いますが、憧れの作家はいますか?

 

三好:イラストも文章も、というとややよこしまな感じがしてうしろめたいんですが、帯文を書いてくださったクリープハイプの尾崎世界観さんは音楽と文学の世界を華麗に横断されててかっこいいなといつも思います。翻訳とエッセイ、どちらもすばらしいものを世に送り出されている岸本佐知子さんにも憧れます。

 

──本書はカバーデザインだけでなく、本文レイアウトも含めて、デザイナーの中北隆介さんが担当されています。三好さんのパートナーです。エッセイにも、中北さんはたびたび登場します。本作りを一緒になさって、いかがでしたか?

 

三好:かなりエッセイを読み込んだうえでデザインしてくれてとてもありがたかったです。挿絵の大きさなども細やかに検討していました。エッセイを収める順番も決めてくれたのは中北なので、ほんとにありがと~という気持ちです。

 

──最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。

 

三好:ここまでインタビューを読んでくださってありがとうございました。どうしようもない大きなできごとが起こるとズーンとなってしまうことも多いかと思いますが、日常のちょっとした手ざわりをこの本から摂取していただけますと幸いです。

 

【あらすじ】
塾の休み時間にしていたひそかなおまじない。ひとりごとを言うときの見えない誰か。落ちこんだ気持ちをなぐさめてくれるおとも。結婚して気づいた名前というものの存在……。日常の中で通り過ぎてきた、ちょっとしたでこぼこを、やわらかな言葉と絵で切りとったエッセイ&イラスト集。初めて著した本書で、「紀伊國屋書店スタッフが全力でおすすめするベスト30『キノベス!2021』」に選出される。文庫化に際し、書き下ろし5編を収録。