2020年に小説推理新人賞を受賞し、翌年『その意図は見えなくて』で単行本デビューを果たした藤つかさ氏。受賞作にも登場する同じ高校が舞台の長篇『まだ終わらないで、文化祭』が刊行されました。「青春」という言葉で語りきれない十代ならではの痛々しさや鬱屈とした感情にも焦点を当てた青春ミステリーです。著者の藤氏に制作秘話など語ってもらいました。

 

前編はこちら

 

ドラマみたいに青春ってキラキラしているだけ? 十代からの疑問も物語のエッセンスに

 

──前作と同じく決してキラキラしているだけではない「青春」を書かれていると思いました。自身の経験も反映されているのでしょう?

 

藤つかさ(以下=藤):自分の十代の頃を振り返ってみると、とても恵まれていたと思います。のどかな田舎で学校生活を送り、家族にも友人にも恵まれていました。いい思い出がたくさんあります。

 それでも、やはり青年期特有のしんどさはありました。学校から「自分の感想を述べよ」という類の課題が出る度に、「自分は本当は何を思ってるんだろう……?」と途方に暮れた記憶があります。

 いわゆるアイデンティティの拡散なのですが、そんなことを考えるのはとても息苦しく、同時に物事の核心に近づいているような確実な手ごたえがありました。物語を書き始めたきっかけも、そんな思考を言語で残しておきたいと思ったからです。

「ドラマや漫画で言うほど、青春ってキラキラしてるだけかな?」というのは、十代の頃から一貫して思っていることではあります。

 

──物語中、フジファブリックの「若者のすべて」が印象的なシーンで使われています。藤さん自身にとっても思い入れのある曲なのでしょうか?

 

藤:誰しも「これは自分のための作品だ!」という衝撃的な出会いがあると思います。私の場合、小説では中島敦やシャーウッド・アンダーソンの作品がそうでしたし、漫画では幸村誠さんの作品がそうです。そして、音楽ではフジファブリックでした。

 高校生の頃、義兄から譲り受けたウォークマンにフジファブリックの曲が入っていて、その歌詞と歌声に衝撃を受けました。音楽番組に流れる曲を適当に聴いていた当時の自分にとって、感傷的な歌詞と声色は明らかにオリジナルに思えました。すぐに音楽に詳しい友人にアルバムを借り、その時「もうボーカル死んどるで」と聞いて二重の衝撃でした。

 フジファブリックの曲の中でも「若者のすべて」は妻との最初の会話のきっかけでもありましたし、結婚式でも流すほど思い入れのある曲です。

 

──今後、書いていきたいテーマやジャンルがあれば、お教えください。

 

藤:今後も学校を舞台に話を作っていきたいと思っています。一つの小さな空間に、考えの違う様々な人がいる、という舞台で物語を紡いでいきたいです。

 特に大学を舞台に物語をつくってみたいと構想しているところです。今度はあまり青春の痛みに焦点を当てたものではなく、もう少し肩の力の抜いた人間ドラマを描いてみようと思っています。

 いずれはサスペンスやファンタジーにも挑戦したいと思っています。

 

──これから本作を読む方に向けて、メッセージをお願いします。

 

藤:インタビューを読んでいただき、ありがとうございます。今作『まだ終わらないで、文化祭』は前作『その意図は見えなくて』と同じ高校を舞台にした物語ですが、今作だけでも楽しんでいただけるよう構成しました。

 爽やかな青春作品では少し物足りない、という読者の方に、ぜひ読んでいただきたいと思います。

 表紙イラストやデザインも大変美しいので、お手に取っていただければ幸いです。

 

【あらすじ】
生徒によるサプライズが慣例の八津丘高校の文化祭。しかし、2年前の文化祭で行われた企画で教師がケガを負ってしまう。その様子はSNSに拡散され炎上した。それから文化祭は自粛ムードに包まれていたが、宣戦布告をするように「2年前」の文化祭ポスターが掲示板に貼られた。文化祭実行委員の市ヶ谷のぞみは教師に命じられ、生徒に聞き込みを始めるが……。自分さがしにもがく高校生の姿を描いた青春ミステリー。