2020年に小説推理新人賞を受賞し、翌年『その意図は見えなくて』で単行本デビューを果たした藤つかさ氏。受賞作にも登場する同じ高校が舞台の長篇『まだ終わらないで、文化祭』が刊行されました。「青春」という言葉で語りきれない十代ならではの痛々しさや鬱屈とした感情にも焦点を当てた青春ミステリーです。著者の藤氏に制作秘話など語ってもらいました。

 

十代特有の「しんどさ」が小説を書くきっかけに。あの頃の自分に刺さる物語を書くのが指針になっている

 

──デビューから第二作となる本作は二日間の文化祭が舞台です。執筆のきっかけを教えてください。

 

藤つかさ(以下=藤):前作と地続きの作品を、とお話をいただいた際、前作より青春小説に寄った物語を書きたいとまず思いました。

 青春と呼ばれる時期にいる高校生が、自身の胸の内を探ったり、他者との関係を構築する過程を一度きちんと書いてみたかったのです。

 青春といえばやっぱりイベント事だろうと考え、文化祭を舞台にしてみました。文化祭を三日間にして祭りの雰囲気や人間ドラマを深く描くことも考えましたが、ミステリー部分とのバランスを考えて二日間にしました。

 

──小さな事件がいくつか起きながら、最後には文化祭全体を覆うような驚きが生徒達の前にあらわれます。本作の特徴の一つだと思いますが、構想の背景があればお教え下さい。

 

藤:これは私の好みの問題なのですが、基本的に物語は群像劇が好きです。一つの出来事に対し色々な人物の思惑が交錯する、という構成に現実味や面白さを感じます。

 ですので、複数の登場人物の視点で描くというところを出発点に構想を進めました。そこから徐々に具体化し「文化祭という一つのイベントで、全ての視点人物が何かを解決し成長する」という作りにしようと決めた結果、大きな事件だけでなく小さな事件をちりばめる作りになりました。

 

──前作と違って、女生徒の視点で物語は進んでいきます。難しさはあったでしょうか?

 

藤:最初に文字に起こした時は男子生徒もたくさんいたのですが、編集の方にアドバイスをいただいた結果、視点人物は女子生徒だけになりました。

 女子生徒を一人称で書くのは、正直なところかなり難しかったです。まずキャラクターを描き分ける地の文でつまずきましたし、所作や容姿の描写にも気を遣いました。

 ですが、出来上がった物語を見てみると、女子生徒だけの方が明らかにクライマックスを綺麗に見せられていると思います。

 

──今回も個性豊かな高校生が登場します。書いていて楽しかったり気に入っていたりする登場人物とその理由を教えてください。

 

藤:書いていて楽しかったのはうしとらさんです。彼女の友人で、同じ軽音学部に所属する望也君の仕草も書いていて心地よかったですし、一番気に入っています。

 今回は色々な「自分らしさ」について書いていますが、艮さんの悩みやその対処法は真っすぐで、彼女にも望也君にも共感できました。艮さんが児童養護施設でボランティアをする理由や、望也君が彼女と仲良しでいつづける理由に思いをはせるのも楽しかったです。

 一番書くのが難しかったのは、主人公で、最初に提示される謎を解く役目を背負う市ヶ谷さんです。結構まともなことを言っているのに、損な役割を押し付けてしまい申し訳ないな、と思いながら書いていました。

 

──藤さんご自身の高校生活からは時間が経っていますが、大人から見れば「青春」まっただ中と思われる人間を描くときに気をつけていたことはありますか?

 

藤:十代の頃、青春小説を好んで読みました。当たり前ですが、刺さるものもあればそうでないものもありました。私が今こうして青春小説を書く際には、十代の頃の自分に刺さる物語を書く、ということを指針にしています。 

 そのため、よく参考にするのは十代の頃自分が書いた物語です。今回の物語のクライマックスで男子生徒と女子生徒が「自分らしさ」について語り合うシーンがありますが、あれは十代の頃自分が書いた文章をヒントにしました。

 大人から見ると、些末なことを大げさに語り合っているようにも思えます。しかしきっと、このシーンは中学生の自分には刺さっているはずです。

 

(後編)に続きます

 

【あらすじ】
生徒によるサプライズが慣例の八津丘高校の文化祭。しかし、2年前の文化祭で行われた企画で教師がケガを負ってしまう。その様子はSNSに拡散され炎上した。それから文化祭は自粛ムードに包まれていたが、宣戦布告をするように「2年前」の文化祭ポスターが掲示板に貼られた。文化祭実行委員の市ヶ谷のぞみは教師に命じられ、生徒に聞き込みを始めるが……。自分さがしにもがく高校生の姿を描いた青春ミステリー。