90歳を超え、老妻の自宅介護をする夫。中年となった子どもたちをあてにせず、日々を楽しむコツは「割り切り」と「潔さ」。問題山積に見える一家が描かれながらも、なぜか読み心地がいい家族小説の続編、満を持して登場!

「小説推理」2023年12月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『じい散歩 妻の反乱』の読みどころをご紹介します。

 

お金のこと、子供のこと、お墓のこと……。 悩んでも仕方ない!  夫婦あわせて180歳超。 ヒット作『じい散歩』、明石家の気になるその後。  令和を生きるシニア世代の御守小説!

 

じい散歩 妻の反乱

 

■『じい散歩 妻の反乱』藤野千夜  /大矢博子 [評]

 

夫婦合わせて190歳近いのに老老介護!? それでも新平は今日も歩く。シビアで身につまされる現実を潔さとユーモアで吹き飛ばす、あの明石家の第2弾登場!

 

 あの明石家が帰ってきた!

 前作『じい散歩』では夫の明石新平が89歳、妻の英子が88歳。3人の息子は皆独身で、52歳の長男は高校以来の引きこもり、40代の三男は事業の赤字を抱えては親にたかる借金王。唯一親を気遣う次男は、次男のはずがいつの間にか長女になっていた(わかるね?)。しかも妻には認知症の兆候が──という状況だった。

 これだけでも「大丈夫か明石家」と思ってしまうのだけれど、そんなシビアな中でも必要以上の心配はせず、趣味の散歩を楽しみ、日々を楽しむ新平の姿になんだかとても大きな元気をもらったものだった。

 あれから数年。本書では新平は93歳になった。相変わらず健康にして健啖家だが、英子は前作で患った脳梗塞の影響で、生活のほぼすべてに介護が必要な状態になっている。なのに引きこもりの長男も50代になった三男も、まったく手を貸さない。移動も排泄も食事もすべて新平が面倒を見ている状態だ。趣味の散歩も減った。しかもそんな状況の親に、三男はまだ金をたかろうとする。

 いやいやいや、前作の5倍くらい大きな声で言うぞ。大丈夫か明石家!? 老老介護にもほどがあるだろう!

 ところがやっぱり、不思議なくらい読み心地がいいのである。それは前作同様、新平ができることとできないことをきっぱり割り切っているからだ。妻の介護も、息子たちの先行きも、暗くなろうと思えばいくらでも暗くなれる。かつてできなかったあれこれを後悔しようと思えばいくらでも後悔できる。でもそんなことをしても仕方ないし意味もない。福祉制度を利用し、妻と自分の最期の始末を自分でしっかり段取りして、その後息子がどうなろうがそれは彼らの責任。この潔さが実に心地いい。

 ただ前作とちょっと違った印象を受けたのは、若い頃の新平は決して良き夫でも良き父でもなかったんだよな、と感じたこと。妻を介護する新平は実に「良き夫」だが、そんな父に次男は、お母さんが元気な時からそれくらいやってあげてれば、と言う。それもまた事実だ。

 だがそれも新平は割り切る。「たとえどの時点に戻って手当てをできたとしても、きっと違うほころびは生じるに違いない」から「考えたって仕方がない」と。そして今日も妻の世話を焼くのだ。潔さの秘訣はそれか。

 人生とは平凡にしてドラマティックだとしみじみ思う、おかしみとペーソスに溢れた一冊だ。