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 デビュー作『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』が2023年冬に草なぎ剛さん主演でNHKドラマ化&韓国映画化進行中の話題の作家、丸山正樹の最新刊『夫よ、死んでくれないか』が刊行された。

 本作は、夫への不満を抱える女性たちの前に次々と事件が起こる、息もつかせぬノンストップ・ミステリだ。主人公の夫が何の前触れもなく失踪してしまったり、親友はモラハラ夫との間に大きなトラブルを抱えることになったり……。一筋縄では行かない展開にページを繰る手が止まらず、その先には驚きの真相とラスト1行の衝撃が待ち受けている。

 本作の執筆の背景や、物語に込めた思いを著者の丸山正樹さんにうかがった。

 

この小説を読んだ男性がどう感じるか。自分には関係ないと突き放すか、思い当たる節があると怯えるか、あるいは謙虚に我が身を省みるのか。

 

──これまで手話通訳士を描いた〈デフ・ヴォイス〉シリーズを始め、社会的弱者の声を掬い上げる唯一無比のミステリを執筆してきた丸山さんですが、今作は少し印象が違うかもしれませんね。

 

丸山正樹(以下=丸山):私はこれまでマイノリティ、障害者をはじめとした社会的弱者ばかり描く作家だと思われているようですが、実は自分ではそういう意識はないんです。大きな困難を抱えていながら世間にその声が届かない人たちや状況に接した時に、「ああ、このことは誰も知らないなあ」という思いにかられて、作品にしてきました。それはおうおうにして少数者であるがゆえに世間が関心を抱かない状況があるため、結果的にマイノリティについて描くことになってきたのだと思います。

 今回の主人公は「結婚している女性」、と決して少数者ではない、いやもっと広く「女性」と言ってしまえば世界の半数についての話ですから、「テーマが変わった」「弱者を描くのはやめたのか」と思われるかもしれませんが、私としては今までとスタンスは変わっていないつもりです。

 現に、少し前に芸能界での性加害に関連して国連の人権理事会の発言が話題になりましたが、その際に挙げられた「日本でリスクにさらされている人たち」の中に、まっさきに「女性」が挙げられていました。「LGBTQ」や「障害者」といった少数者よりも先に、人口の半分いる「女性」の問題が最大の人権課題である、と。現代の日本はそういう国であるわけで、たとえ当事者でなくとも、いやむしろ当時者ではない「男」が書くことで、この問題をより広く考えてもらう機会になるのではと考えたのです。

……と、考えたまでは良かったのですが(笑)、難航したのは具体的に設定を決め、物語をつくり始めてからです。

「当事者」である女性たちの生の声を聞いていったにもかかわらず、いやそれゆえか、筆は全く進みませんでした。ストーリーはつくれるのですが、肝心の主人公の心情が全然描けない。こうして完成までこぎつけることができたのは、ひとえに取材に応じてくれた方たちを含む、「女性たち」のおかげです。

 

──先行してゲラを読んでくれた書店員さん、主に女性からですが、「私の本音が丸山先生にバレていた!」「夫への不満が凄く共感できる。もう先生よく書いて下さいました」と絶賛の声が届いています。

 

丸山:私としては女性読者の反応が怖かったので、そういった感想は意外であり、もちろん大変嬉しいことでもあります。

 タイトルやコピーだけ見れば女性読者が主な対象となるかもしれませんが、私はむしろ、「男性」に読んでもらいたいと思っています。あとがきに冗談っぽく「この書を読んで震えて眠れ」などと書いてしまいましたが、震えるかはともかくとして、この小説を読んだ男性がどう感じるか。自分には関係ないと突き放すか、思い当たる節があると怯えるか、あるいは謙虚に我が身を省みるのか。これから結婚する男性には特に、登場する男たちを反面教師として、こういう夫(おとこ)にはならないよう気を付けてほしいと思います。

 では女性には読んでもらいたくないのか、と言われればもちろんそんなことはありません。本当に「彼女たち」の思いが書けているのか、女性読者の反応や感想が大変気になります。

 

──最後に今後の執筆予定と、読者へのメッセージをお願いします。

 

丸山:現時点で決まっているのは、ほとんどがすでに書き上げたか発表済みのもの(11月から文庫化と児童書の続編など四か月連続で刊行物があります)です。

 この数年、年に2作プラスアルファ、というペースで作品を発表してきましたが、本来はそういうタイプではないと自覚しているんです。デビュー後に5年もの間2作目が出なかったのはさすがにブランクが空きすぎでしたが、この辺りでちょっとペースを落として、いろいろ考えてみたいんです。

 自分が本当に書きたいものと他人の評価の間にあるものは何なのか、じっくり考えた上で次の作品にとりかかりたいと思っています。もちろん「デフ・ヴォイス」や「刑事何森」といったシリーズや、昨年出した『ウェルカム・ホーム!』にも続編を、という話はいただいているので、少し時間はかかるかもしれませんが、必ず良い作品をお届けしますので、読者の皆さんには長い目でお待ちいただけるといただけると嬉しいです。

 

【あらすじ】
結婚五年目にして夫婦関係が冷えきってしまった麻矢、離婚を経験した璃子、モラハラ気質の夫に悩みながら一人娘を育てる友里香。三十代半ばになった大学の同級生三人組は、立場は違えどみな夫への不満を抱え、時に集まり「元気なまま死んでくれないかしら」と愚痴を言い合っていた。
しかしある夜、友里香はモラハラ夫との間に大きなトラブルを抱えることになり、さらに麻矢の冷淡な夫も何の前触れもなく失踪してしまう。夫の身に一体何が起こったのか!?
次々起きる事件によって、固い絆で結ばれた三人組の仲にも亀裂が入り始める……。
結婚前には誰も教えてくれなかった、結婚の本質と危うさに迫る、衝撃のノンストップ・ミステリ!

 

丸山正樹(まるやま・まさき)プロフィール
1961年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。シナリオライターとして活躍の後、松本清張賞に応募した『デフ・ヴォイス』で、作家デビュー。コーダ(ろう者の両親の家庭で育った聴者の子ども)である手話通訳士を主人公にしたミステリーで話題となり、続編の『龍の耳を君に』『慟哭は聴こえない』『わたしのいないテーブルで』などが次々と刊行される。2021年『ワンダフル・ライフ』で読者メーターOF THE YEAR 2021に選ばれる。22年『龍の耳を君に』が第17回酒飲み書店員大賞を受賞。他の著作に『漂う子』『ウェルカム・ホーム!』『キッズ・アー・オールライト』などがある。