累計130万部を突破した佐々木裕一さんの傑作時代シリーズ「浪人若さま 新見左近」。このたび、第一部である〈決定版〉が完結しました。それを記念し、このシリーズの大ファンだという人気ロックバンド「ユニコーン」の川西幸一さんに単独インタビューを行いました。シリーズの魅力や、登場人物について熱いトークを繰り広げた川西さん。「ユニコーン」のメンバーが演じるならどのキャラクターかを考えてくれるなど、ファンにとってもたまらないインタビューとなりました。

取材・文=岡崎裕美子 撮影=川口宗道

 

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「このシリーズのいちファンとしては、勝手な希望なんですけど、ずっと続いてほしい」

 

 新シリーズでは『新・浪人若さま 新見左近【十三】忠義のほまれ』の赤穂浪士、忠臣蔵のエピソードがいいですね。もちろん超有名な話ではあるんですけど、この角度で描いた作家さんはあんまりいないんじゃないかなと思います。単に政治的な話として描くのではなく、武士の、「もののふ」の心構えという点にポイントを置く。最後に赤穂浪士たちが左近のもとを去っていくシーンがこれまた感動的で素晴らしいんですよ。それから『浪人若さま 新見左近 決定版【十四】将軍への道』もいいですね。これは、第一部の最終巻になるわけですけど、物語の終わり方にスピード感があってすごく面白い。綱吉の求めに応じて西ノ丸へ入っていく左近と、京へ旅立つお琴ちゃんたち。この先どうなるんだろうという期待感がすごかったですね。次に新シリーズが出ることが決まっていたのかいなかったのか、僕は知らないけど(笑)。

 実際の徳川家宣は将軍を3年間つとめて51歳で亡くなっています。でも、このシリーズのいちファンとしては、勝手な希望なんですけど、ずっと続いてほしい。僕は、時代小説は史実通りじゃなくて、創作の部分があっていいんじゃないかと思っているんですよ。なので、歴史的には亡くなったことになったけど、そのあと、本格的に市井の暮らしをはじめた、ということになったら面白いんじゃないかと。その年齢だと「若さま」じゃないから、完全に「浪人・新見左近」として生きて、そこから新しいドラマが生まれる新シリーズがスタートするのはどうですかね。家宣が亡くなってこのシリーズが終わるとしたら残念なので、死ななくていいんじゃないかと思います(笑)。家康にしたって、世良田二郎三郎元信せらだじろうさぶろうもとのぶという影武者がいたという話もある。時代小説はそういう新しい展開を作っても許されるんじゃないですかね。左近には、ひとりの浪人として江戸の町を自由に飛び回ってほしいなと思います。

 実は、このシリーズを読む前に家宣のことを調べたことがあるんですが、3年で亡くなったとはいえ、将軍職に就いたときにかなり改革的なことをやっている。それまでの疲弊した江戸幕府の体制を整えて、変えていったんですね。もし、家宣がもっと長く生きて将軍として活躍していたら、きっと徳川家はまったく違うものになっていたんじゃないかと思います。3年という短さゆえに、小説の主人公にする人も少なかったんだろうなと。そこにスポットを当てた佐々木さんはさすがですね。八代将軍なんて書かれまくってますから(笑)。

 歴史上の人物をどんなふうに描くのか、設定をどうするのかが時代小説では重要ですよね。例えば、田沼意次という人物は、一般的には賄賂を受け取ったりという悪いイメージがあるけど、池波正太郎さんの『剣客商売』に描かれる田沼意次は悪く描かれない。実際、田沼意次は、米を中心とした経済を貨幣経済に変えようとしたり、いろいろと斬新な政策を打ち出そうとしたがゆえに潰されたともいわれているんです。歴史って表裏一体だと思うんですね。だから「家宣は死んだことになっていた」でも大丈夫じゃないかな(笑)。

 左近のような人物が現代の政治家にもいてほしいですね。改革を行うことはもちろん、情が根底にあるような人物。もちろん、政治は非情じゃないとできないかもしれないけれど、ベースには人に対する優しさがないといけないし、それがなかったらみんな疲弊すると思うんです。そして優しさだけじゃなくて、決断力もあるような、みんなを引っ張っていける人がいい。そう思います。

 先日、僕が広島でやっているラジオ番組に佐々木さんをゲストとしてお招きして、初めてお会いしました。ずっとお会いしたいと思っていたのでうれしかったですね。佐々木さんの第一印象は「デカっ!」(笑)。想像していたより背が高くて。お話しさせていただいたら、純粋で、目が子どものように澄んでいる方だなと思いました。作家さんて、作品にその方の性格が出ますよね。一語一語大切に考えながら話す姿が印象的でした。

「浪人若さま」を実写化するとしたら、左近役はどの俳優さんがいいかという質問が佐々木さんから来ました。誰がいいかなあとずっと考えていたんですが、藤原竜也さんはどうでしょう? 真っ正直で熱くて、しかも愁いのある感じがピッタリかなと思います。それと、僕がもしその実写版に出演するとしたら、北町奉行所見習い与力の藤堂直正役をやりたい。理由は、ちらっと出るくらいがちょうどいいかなと思って(笑)。

 ついでに、ユニコーンのほかのメンバーにも役を当てはめてみました。EBIは雨宮真之丞、(奥田)民生は岩倉具家、ABEDONは徳川綱吉、テッシーは徳川光圀。気になった方はぜひこのシリーズを読んでみてください。

 

川西幸一(かわにし・こういち)プロフィール
1959年広島県生まれ。ロックバンド「ユニコーン」のドラマーとして1987年にデビュー。「大迷惑」「働く男」などのヒット曲をリリースする。1993年2月にユニコーンを脱退。バンドは同年9月に解散。その後、J(S)Wのボーカル宮田和弥らと結成した「ジェット機」など、いくつかのバンドを経る。2009年にユニコーンが16年振りに再始動。2012年にユニコーンのギタリストの手島いさむ(テッシー)、ベーシストのEBIとともにバンド「電大」を結成。今秋には「電大」のツアーが予定されている。

ユニコーンオフィシャルサイト:https://www.unicorn.jp/
電大オフィシャルサイト:https://den-dai.com/