累計130万部を突破した佐々木裕一さんの傑作時代シリーズ「浪人若さま 新見左近」。このたび、第一部である〈決定版〉が完結しました。それを記念し、このシリーズの大ファンだという人気ロックバンド「ユニコーン」の川西幸一さんに単独インタビューを行いました。シリーズの魅力や、登場人物について熱いトークを繰り広げた川西さん。「ユニコーン」のメンバーが演じるならどのキャラクターかを考えてくれるなど、ファンにとってもたまらないインタビューとなりました。

取材・文=岡崎裕美子 撮影=川口宗道

 

「佐々木さんの作品は根底に明るさがあるし、読んでいてワクワクするし、ホッとするようなところがあります」

 

 佐々木裕一さんの本と出会ったのは10年ちょっと前くらいかな。僕は30代のころから時代小説のファンなんです。あるとき、何か面白そうな本はないかなあと思って“時代物 おすすめ”でネット検索していたら「浪人若さま 新見左近」がおすすめという記事がいちばん上に出てきたんですよ。そのネットの記事を読んだら、佐々木さんは僕と一緒で広島県出身だと書いてあった。それもあって読んでみようと思ったんです。ネット書店でさっそく注文して、初めて読んだのがこの「浪人若さま」。以後、シリーズは全部読んでいるくらい大好きな作品です。

「浪人若さま」シリーズの主人公の新見左近のモデルとなった第六代将軍・徳川家宣は、一般的には知名度が低いかもしれないけれど、時代小説のファンからするとお馴染みの人物なんです。もちろん主役としては出てこないんだけど、頭の切れる名君としてよく登場する。だから、家宣をモチーフにしているなら絶対に面白いだろうと思いました。読んだらやっぱり面白い。僕は、1冊読んで気に入ったら、その作家の作品は全部読むことにしているんですね。それで佐々木さんの本を集めるようになりました。

 佐々木さんの作品は明るいんですよね。殺伐としたものがない。僕は、いわゆる「始末物」と呼ばれるような作品はあまり好みじゃないんです。未来がないというか。それはそれで作品としては完成しているかもしれないけれど、自分で読むなら、明るくて、明日に向かっていくようなものがベースにあるといいなあと。佐々木さんの作品は根底に明るさがあるし、読んでいてワクワクするし、ホッとするようなところがあります。そこが魅力ですね。

 はじめ、新見左近はぼろ屋敷に住む、たんなる浪人として登場するんです。その設定からまず惹かれました。この「浪人若さま」の1巻目が出版されたのが、ユニコーンが再始動した次の年(2010年)。僕は、江戸時代の浪人をテーマにした『素浪人ファーストアウト』というユニコーンの楽曲を作ったりもしていて、その再始動後の気分と、この作品の読後感がちょうどハマったんです。時代は違っても「仲間が集まって何かに向かって動き出す」ことが共通していたのかな。それからずっとこのシリーズを楽しみに読んでいます。

「浪人若さま」は勧善懲悪の場面が多いけど、それだけじゃなく“お琴ちゃん”とのジリジリするような恋模様が描かれたりするのもいいんです。恋に落ちそうで落ちなかった「おてんば姫」とのエピソードもそうだけど、男女の機微の描き方についても抜群だと思いました。佐々木さんは女性の気持ちをよくわかっているなあと思います(笑)。

 新見左近を支える長屋の人物もいいですよね。いかにも江戸っ子らしい“権八”と、権八を尻に敷く妻の“およね”はすごく魅力的です。「剣客物」にとどまらず、「人情物」としても読めるところがいいなと思います。左近の友人で、かつてはライバルでもあった岩倉具家は特に好きなキャラクターです。クールさと熱さを兼ね備えたところがカッコいい。なんなら、このシリーズのスピンオフとして、この岩倉を主人公にした作品を佐々木さんに書いてもらいたいですね。岩倉の生い立ちから始まって、話が進むにつれて左近が登場する。そういうものも読んでみたいですね。

 

(後編)に続きます。

 

川西幸一(かわにし・こういち)プロフィール
1959年広島県生まれ。ロックバンド「ユニコーン」のドラマーとして1987年にデビュー。「大迷惑」「働く男」などのヒット曲をリリースする。1993年2月にユニコーンを脱退。バンドは同年9月に解散。その後、J(S)Wのボーカル宮田和弥らと結成した「ジェット機」など、いくつかのバンドを経る。2009年にユニコーンが16年振りに再始動。2012年にユニコーンのギタリストの手島いさむ(テッシー)、ベーシストのEBIとともにバンド「電大」を結成。今秋には「電大」のツアーが予定されている。

ユニコーンオフィシャルサイト:https://www.unicorn.jp/
電大オフィシャルサイト:https://den-dai.com/