■『10歳で私は穢された』橋本なずな

 

 ジャニーズの元所属タレントが10代で受けた性被害を続々と告発し、児童虐待防止法改正まで論議されるなど社会問題となっているなか、衝撃的なノンフィクション『10歳で私は穢された』が刊行された。著者は橋本なずなさん、23歳。手記を基に構成された実話である。

 9歳の誕生日目前に、父のDVで両親が離婚。1年半後、女手ひとつで必死に育ててくれる最愛の母に、ある変化が訪れる。地元の卓球サークルで出会った「おじさん」と交際し始めたのだ。

 家に上がり込むようになったおじさんを嫌ったのか、兄は母方の祖母の元へと出奔。ショックで「死にたい」と泣き崩れる母の姿に、なずなさんは呆然とする──ママがいなくなったら、ひとりぽっちになってしまう!!

 おじさんは、そんな彼女の寄る辺なさを見透かすように近づいてきた。美味しいケーキを買ってきてくれたり、ゲームで遊んでくれたり。だがこれは、子供への性的加害をたくらむ大人による「グルーミング」、つまり典型的な手なずけ行為だった。

 年末のある夜。母の入浴中、ついにおじさんは、共にこたつに当たっていたなずなさんに襲いかかる。おぞましい行為はエスカレートの一途をたどり、苛烈な性的虐待の光景は、細部まで生々しい。しかし、10歳の少女は耐え抜いた。「ママのためや。私が黙っていれば、すべてがうまくいくんや。しんどいのは、私やない。体の中のうさぎちゃんが感じてるんや」と心に言い聞かせながら。

「今回出版の機会を得て、長年封印していた忌まわしい記憶をすべて明かすことにしました。こみ上げる吐き気にえずき、ぐしゃぐしゃに泣きながら、それでも書きました」と打ち明けるなずなさん。男が吸っていたタバコ・メビウスのにおいがすると、今でもフラッシュバックに苦しむという。

 1年近く続いた性的虐待は母とおじさんの破局で終わりを告げたが、身心に与えた凄絶な影響は、むしろそこからが本番だった。10代後半からセックス依存や3つの精神疾患の発症、2度の自殺未遂。さらに、愛してやまない母への殺意に発展していく。被害者に刻み込まれた痛々しいダメージや自傷行為の数々も、報道等で非道な行いを受けたと明かす元タレントたちの証言と多々重なる。

 だが、彼女は折れなかった。自尊心を徹底的に破壊されてもなお、起業にまい進することで誇りを取り戻し、「私の心と体は私だけのもの。あなたも私も、このまま笑って、ここにいていいんです」と力強く訴えるのだ。

 実態はもっと深刻と言われる性被害。それがどんなに罪深く、残酷なものなのか。ぜひ、勇気ある告白を通して理解を深めてほしい。今こそ必読である。