俳優・西島秀俊と上白石萌歌が出演したことでも話題になったドラマ『警視庁アウトサイダー』。その著者が新しく描いたのは、アートと推理を融合された新感覚警察小説『刑事ダ・ヴィンチ』だ。藝大卒の天才肌刑事と四人の子持ちの庶民派刑事の掛け合いや、繰り広げられるアーティスティックな推理がクセになると早くも読者を魅了している。
「小説推理」2023年7月号に掲載された書評家・日下三蔵さんのレビューで『刑事ダ・ヴィンチ』の読みどころをご紹介します。
■『刑事ダ・ヴィンチ』加藤実秋 /日下三蔵[評]
美術の知識で謎を解く東京藝大卒の異色刑事・南雲士郎の活躍! 警察小説界に新風を吹き込む加藤実秋の新シリーズ、待望のスタート!
加藤実秋が「インディゴの夜」で第10回創元推理短編賞を受賞してミステリ作家としてデビューしたのが2003年だから、今年で作家生活は20年におよぶことになる。
ホストクラブを舞台にした「インディゴの夜」シリーズ(集英社文庫)、個性的な清掃員が活躍する「モップガール」シリーズ(小学館文庫)、殉職して魂だけがぬいぐるみに入ってしまった刑事が謎を解く「アー・ユー・テディ?」シリーズ(PHP文芸文庫)と奇抜な探偵役を次々と生み出し、テレビドラマ化された作品も多い。
近年では、退職した警察関係者のシェアハウスを舞台にした『メゾン・ド・ポリス』(角川文庫)、警察職員の不祥事を内偵する部署を描く『警視庁レッドリスト』(小学館文庫)、訳アリの刑事トリオが活躍する『警視庁アウトサイダー』(角川文庫)と、警察小説の力作を矢継ぎ早に刊行している。
文庫書下しの最新シリーズである本書『刑事ダ・ヴィンチ』も、風変わりな経歴の刑事が探偵役を務める異色の警察小説である。
楠町西署の小暮時生刑事は新たに赴任してきた南雲士郎刑事とコンビを組まされる。2人はかつて捜査一課でコンビを組んだ仲であった。藝大卒で、ことあるごとにレオナルド・ダ・ヴィンチの言葉を引用する南雲は「ダ・ヴィンチ刑事」とあだ名されているが、美術の知識を生かして事件を解決していくのだ。
車が崖下に転落する第1話「奈落」では、地面に大きな穴が開いていたという目撃証言の謎を。失踪したユーチューバーの行方を追う第2話「光源」では、被害者の工房の様子から事件の真相を。美大生の転落死事件を捜査する第3話「対価」では、奇想天外な殺害トリックを、ダ・ヴィンチ刑事は飄々と見破っていく。
警察小説は初期においてはハードボイルドと融合することが多かったが、現代では多様化し、サスペンス、ユーモア推理、社会派、サイコスリラーと、さまざまなタイプの作品が書かれている。本書の場合は、ユーモラスな本格ミステリ。芸術家肌の南雲刑事は、現代におけるシャーロック・ホームズの1人である。
個別の事件の面白さもさることながら、南雲と小暮が12年前に捜査した未解決事件の謎が全編を通して描かれていくようで、シリーズとしての趣向も凝っている。今夏発売予定という第2巻が、早くも待ち遠しい。