2022年のベスト・ブック

【第1位】

ブックデザイン=アルビレオ
カバービジュアル=Willy Verginer

『マザー・マーダー』
矢樹純 著
光文社

【第2位】
『爆弾』

呉勝浩 著
講談社

【第3位】
『リバー』

奥田英朗 著
集英社

【第4位】
『俺ではない炎上』

浅倉秋成 著
双葉社

【第5位】
『此の世の果ての殺人』

荒木あかね 著
講談社

 

 今年は終息に向かうはずと思ったコロナ禍だが、終息どころかさらなる波が続く日々。2月末にはロシアのウクライナ侵攻が始まり、その影響は世界の産業や経済にも大きな影を落とした。2022年というと、かように暗い話題が先行しがちだが、幸い日本ミステリー界は好景気を維持しているようだ。

 ご存じ『このミステリーがすごい!』「週刊文春」の年間ベストテンでも新旧の顔ぶれが程よく混ざりあった結果が出ている。今年は冒険アクションハードボイルド系がちょっと弱い気もするが、ジャンル的にも偏ってはいないのでは。そんな中、小生のベスト5はどうなったかというと――

 まず第5位は新人枠。荒木あかね『此の世の果ての殺人』(講談社)は今年の江戸川乱歩賞受賞作。3か月後、阿蘇に小惑星が衝突すると公表されている九州・福岡に弟と2人居残り、自動車学校に通い続けている女子・小春が、元刑事の教官・イサガワとともに連続殺人犯を追うことになる。大枠は特殊設定ものだが、物語的にはバディものの捜査小説である。小春とイサガワは捜査先で様々な人々と出会い、交流を深めていく。事件の行方もさることながら、そのドラマ演出が新人離れしており、読ませるのだ。

 第4位は浅倉秋成『俺ではない炎上』(双葉社)。架空の町の住宅メーカーの営業部長がある日突然、ネットで女子大生殺害犯として素性をさらされ追われる身となる。彼には逃亡を促す投書があり、自宅ではさらなる女性の死体も発見されるが……。本人はもちろんその愛娘、殺人現場写真付きの投稿を拡散させた大学生、彼を追う刑事等、多視点で描かれていく迫真の逃亡サスペンス――と思いきや、そこは『六人の嘘つきな大学生』の作者、一筋縄ではいかない。後半、思いも寄らない大仕掛けが待ち受けているのである。

 第3位は奥田英朗『リバー』(集英社)。表題の川とは栃木、群馬県境を流れたのち利根川に合流する渡良瀬川のことである。その渡良瀬川沿いの町、桐生、足利で相次いで女性の全裸他殺死体が発見される。両市では10年前にも同じような事件が起きており、両県警は色めき立つ。過去の事件では重要容疑者をつかまえておきながら結局未解決になっていた。今回も複数の容疑者が上がってくるが……。捜査陣の面々を始め、被害者家族や新聞記者など多彩な関係者を通じて事件を活写していくこの著者十八番の犯罪群像劇。ちなみに舞台は小生の地元であります。

 実はここまでの3作は、他誌への回答と同じなのだが、上位2作がちょっと違う。作品自体は変わらないが、順序に変更ありで、第2位は呉勝浩『爆弾』(講談社)。

 9月のある夜、酒屋の自販機を蹴って止めに入った店員を殴りつかまった男、スズキタゴサク。この一見冴えない中年おやじはだが、稀代の爆弾魔だった! 彼の予告通り、秋葉原や東京ドームの近くで爆発が起きる。おまけに、さらなる爆破をめぐって、取り調べに当たる警視庁捜査一課特殊犯捜査係の刑事を相手にゲームを始める始末。

 読みどころはもちろん、捜査陣とスズキタゴサクとの息詰まる対決の行方なのだが、このおっさん、のらりくらりと追及をかわし、何が目的なのか、なかなか尻尾を現さない。素性はもとよりそもそもその日の足跡も不明なのだ。まさに前代未聞のテロリスト・キャラというべきか。相対する警視庁のコンビや現場の野方署の男女コンビなどもいい味出していて、捜査小説としての読みごたえも抜群。ミステリーとしても、黒い笑いたっぷりのクイズ仕掛けだけが能じゃないし、不公平感が蔓延する日本の現状をうがつ、破壊度充分の社会派作品である。

 そして栄えある第1位は矢樹純『マザー・マーダー』(光文社)。作品に変わりはないのに、何故順番を変えたのかというと、矢樹さんの新作『不知火判事の比類なき被告人質問』(双葉社)を読んだから。本レビューでは今年矢樹作品を2作ベストに挙げたが(『マザー・マーダー』と長篇『残星を抱く』)、今年はこれで終わりだと思っていたところへ本誌連載の不知火判事シリーズが本になった。連作短篇集に長篇ときて、今度はシリーズものかよ! しかも思いも寄らぬリーガルミステリー! まったくこの作者はどれだけ抽斗を持っているんだ。

 不知火シリーズは倒叙もので、まず犯行が描かれたのち犯人逮捕、裁判へと至るが、順調に結審へと進んだかと思われたとき、左陪席の不知火判事の逆転技が炸裂するという、まさに「どんでん返しの新女王」にふさわしい快作集。すなわち、手を変え品を変えての三連弾に図らずも脱帽したという次第だ。

 で、第1位の『マザー・マーダー』だが、全5話で、第1話は横浜在住の専業主婦が友人のネットショップを手伝うことになるが、品物の搬出入をめぐる騒音で隣家と揉め、さらなるトラブルに。第2話は横浜郊外の病院で働く看護師が娘からの連絡で半年前に死んだ元夫の隠し子が現れたことを知る、というと、いかにも1話完結ものっぽいけど、第1話に出てきた隣人が第2話、第3話……と出てきて、どうやらその親子が主役であることがわかってくる。どういう親子なのかは読んでのお楽しみ。イヤミスだけど、作者は予想もつかない結末へと連れていってくれます。