人気連載「今月のベスト・ブック」の中から、各ジャンル別2021年のベストを選出!
コロナウイルスとの戦いは昨年から続き、未曾有の事態を反映した作品も生まれました。
読者の皆様にとって、この1年を表す作品は何でしたか?
答え合わせをするのもよし、新年の読書計画の参考にするのもよし。
本企画によって新たな作品と出会えますように!
2021年のベスト・ブック
【第1位】
『テスカトリポカ』
佐藤究 著
KADOKAWA
【第2位】
『機龍警察 白骨街道』
月村了衛 著
早川書房
【第3位】
『ブックキーパー 脳男』
首藤瓜於 著
講談社
【第4位】
『アクティベイター』
冲方丁 著
集英社
【第5位】
『同志少女よ、敵を撃て』
逢坂冬馬 著
早川書房
2021年は前年に引き続きコロナ禍の年であった。第4波、第5波と感染拡大が続く中強行開催された東京五輪も霞んだ感ありだったが、逼塞した状況下においても日本ミステリー界はへこたれず、好調を維持。新人からして注目株が続々と登場した。
本レビューでも、そえだ信『地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険』、新川帆立『元彼の遺言状』、原浩『火喰鳥を、喰う』、榊林銘『あと十五秒で死ぬ』、荻堂顕『擬傷の鳥はつかまらない』、亀野仁『暗黒自治区』、平居紀一『甘美なる誘拐』、羽生飛鳥『蝶として死す 平家物語推理抄』、潮谷験『スイッチ 悪意の実験』、そして江戸川乱歩賞の2作、桃野雑派『老虎残夢』、伏尾美紀『北緯43度のコールドケース』等を取り上げたが、これだけで年間ベスト5が組める勢い。
お馴染み『このミステリーがすごい!』や「週刊文春」のベストテンでは、米澤穂信『黒牢城』を始め、本格ミステリー勢が強いけれども、今年は冒険アクションハードボイルド系にも強豪が揃った。なので、今年はいつものマイナー系贔屓をおさめて、素直な心でベスト5を組むことにした。
というわけで、新人枠からいくと、第5位は今月(「小説推理」2022年2月号)のBM、逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』。実はこれが出て5作の枠がきれいに決まったのだった。詳細は今月のBM欄をお目通しいただきたいが、第二次世界大戦の独ソ戦における女性だけの狙撃小隊の軌跡を追った迫真の戦争冒険小説だ。スティーヴン・ハンター顔負けの狙撃アクションの迫力。これがデビュー作というんだから驚天、まさに破格のアガサ・クリスティー賞受賞作である。
第4位は冲方丁『アクティベイター』。東京・羽田空港に中国のステルス爆撃機が強行着陸、女性パイロットが亡命を申請する。警察庁の鶴来警視正がその対応に追われるが、一方、彼の義兄で警備員の真丈太一は通報のあった顧客宅で謎の刺客たちと死闘を繰り広げることに。鶴来パートの謀略劇と真丈パートの格闘劇が交錯するスリリングな国際謀略活劇。とりわけ真丈パートの格闘シーンが素晴らしい。一介の警備員がこんな強いわけがないと思うのも当然、真丈は様々な格闘技に通じたアクティベイターなのだ──って、そのアクティベイターの正体が最後まではっきりしないところがミソ。もちろんただの工作員ではない、秘密組織の一員なのだが、日米の闇をえぐり出すその真実は、続巻に期待!
第3位の首藤瓜於『ブックキーパー 脳男』は何と14年ぶりのシリーズ最新作。警視庁捜査一課の与件記録統計分析係が異常犯罪のデータベースを製作中、被害者の性別も年齢も住所もばらばらだが、どれも拷問を伴った猟奇殺人事件に着目。チーフの鵜飼縣はやがてそれらの共通項に中部地方の大都市・愛宕市があるのを発見する。その頃愛宕市では、脳男・鈴木一郎と深いつながりのある財閥・氷室家で当主が惨殺される事件が。被害者は拷問されており、茶屋警部は直ちに捜査を始めるが、そこへ警視庁の鵜飼登場。茶屋も彼女も重大事件の陰に脳男ありと見ていた。
その鈴木は例によってなかなか出てこないが、そこはタフガイ刑事の茶屋や新キャラの鵜飼がカバー。他にも、悪徳警官あり、猟奇殺人者ありの捜査活劇が繰り広げられるが、注目はクライマックスで、こんなスペクタクルが用意されているとは予想だにしていなかった。シリーズはこれで終幕なのだろうか。
第2位は同じくシリーズ最新作、月村了衛『機龍警察 白骨街道』。警視庁特捜部長の沖津は首相官邸に呼び出され、軍事機密を国外に持ち出しミャンマーで拘束された国内重工業メーカーの社員の移送を命じられる。お偉方はその移送役に、新型機甲兵装・龍機兵搭乗要員の突入班3人を指名。かくして姿警部たちは少数民族の武装組織が活動する紛争地域にある収容所へと向かう。
舞台は第二次世界大戦時の悪名高きインパール作戦でも知られた土地。突入班初の海外出張先としては何不足はないが、肝心の機甲兵装アクションが封じられてしまうのではと心配の向きもあるかと。でもちゃんと出てきますよ、とびっきりなのが。それに、移送劇の背景となる、国内初の機甲兵装開発をめぐる陰謀やら、特捜部潰しにかかる警察の闇組織の思惑やら等もしっかりと描かれている。謀略活劇として国際級の出来栄えなのはもちろん、山岳冒険小説、スパイ小説としても読み応え充分の傑作なのは間違いない。
そして輝ける年間ベストは佐藤究『テスカトリポカ』。直木賞も山本周五郎賞も取ったし、本人もあちこちで顔出ししているので、もはや紹介不要かもしれないが、メキシコの麻薬カルテルのボスが対立組織に追われ、アフリカ、アジアを経由して日本へ逃亡。その過程で知り合った日本人の闇医者と組んで川崎で臓器売買の組織を新たに立ち上げるという国際犯罪小説である。
本作が凄いのは現代の国際犯罪の最前線に古代アステカ神話を重ね合わせたところで、メキシコ人女性と日本のヤクザとの間に生まれた巨漢コシモを始め、荒ぶる神々さながらの怪人たちが跳梁跋扈。血なまぐさいシーンも頻出するが、その暴力描写が一皮むけば弱肉強食の現代社会の裏側を容赦なく暴き出すのである。ちなみに現実の川崎は決してアブない犯罪都市ではありません、念のため。