2015年刊行のデビュー作『君の膵臓をたべたい』で一躍ブレイクした小説家・住野よるさんが、約1年半ぶりとなる最新長編『腹を割ったら血が出るだけさ』で選んだ題材の1つが、アイドル。「この小説を書くきっかけとなった人が、2人います」。キーパーソンの1人目は、綾称さん。アイドルグループ・BiSの元メンバーだ。
(取材・文=吉田大助 撮影=小島愛子)
なりたくてなれなかった
こうなりたいと純粋に思える人
綾称:お久しぶりです。3年以上ぶりですね。
住野よる(以下=住野):文章でのやり取りはさせてもらってたんですが、お会いするのは2019年の夏以来です。以前お会いすることになった経緯をお話しすると、もともと僕は、BiSHのモモコグミカンパニーさんが本を読んでくださってるというのを読者さんから教えてもらったことで、モモコさんとBiSHを知ってめちゃめちゃハマって。そこから同じ事務所所属の第2期BiSに辿り着いたんですね。綾称さんは当時ゴ・ジーラという名前で活動されていたんですが、ライブを拝見して「ダンスがすごく大きい方がおられるな!」と。発信されてる言葉も面白くていつかお話を伺ってみたいなぁと、Twitterで僕が勝手につぶやいていたりしたんです。そうしたら、綾称さんのオタク兼僕の読者さんが繋げてくださった(笑)。
綾称:さるぼぼちゃんですよね。特典会の時にさるぼぼちゃんが「住野さんがお話ししたいって言ってたよー」って言うから、「いいよ!」って(笑)。それがご本人に伝わったみたいですね。
住野:とてもありがたかったです。次はアイドルの小説を書きたい、と考えていたわけではなかったんですよ。とりあえず綾称さんに会って、お話を聞いてみたい。その思いだけで、わざわざ綾称さんに双葉社へお越しいただいて、担当編集さんと一緒に3時間ぐらいお喋りさせてもらいました。ありがとうございました。
綾称:こちらこそ! 当時、(第2期)BiSはもう解散していたんです。「私、何も肩書きがないですけど逆にいいんですか?」という感じでした。ただ、楽しかった思い出はあるんですけど、何を話したかは全然覚えていない(苦笑)。
住野:お会いする前に、ネットで見られるインタビュー記事を一通り読んでいったんです。一般の人が思い浮かべるアイドル像とは違うというか、かなり刺激的な発言もされているじゃないですか。「どれぐらいが綾称さんの部分で、どれぐらいがゴ・ジーラの部分なんですか?」という点をがっつりお伺いしましたね。面白かったのが、同時期に、アイドルの高井つき奈さんとお話をさせていただく機会もあったんです。お2人のアイドル観が本当に全く違うんですよ。
綾称:高井つき奈さん、私も気になります。
住野:お2人をモデルにした登場人物が出てくる小説を書こう、と思ったのが『腹を割ったら血が出るだけさ』を着想するきっかけでした。この中に出てくるインパチェンスという7人組女性アイドルグループの〈後藤樹里亜〉は綾称さんがモデルで、〈高槻朔奈〉は高井つき奈さんがモデルなんです。
綾称:住野さんはそう言ってくださいますが、小説を読ませてもらってまず最初に思ったのは、「私も〈樹里亜〉みたいな人になりたかったな」って……。すごく考えが深いし、考えたうえで行動もできるじゃないですか。ガクッとものすごく落ち込んだ時も、短期間で自分を上向きに持っていける。私がなりたくてなれなかった人、こうなりたいと純粋に思える人が〈樹里亜〉でした。
住野:めっちゃ興味深いです。実は、僕が思ったのは逆なんですよ。〈樹里亜〉が成長して綾称さんになると思っているんです。
〈後編〉──に続きます。
住野よる(すみの・よる)プロフィール
高校時代より執筆活動を開始。2015年『君の膵臓をたべたい』でデビュー。同作で2016年「本屋大賞」第2位、Yahoo!検索大賞“小説部門賞”など、数多くの賞を受賞した。著書に『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『か「」く「」し「」ご「」と「』『青くて痛くて脆い』『この気持ちもいつか忘れる』、「麦本三歩の好きなもの」シリーズなど。ライブハウスと書店が好き。