SNS炎上をテーマにした『俺ではない炎上』が大ヒット中の浅倉秋成さん。昨年は『花束は毒』が大ヒットし、新著『学園の魔王様と村人Aの事件簿』を刊行したばかりの織守きょうやさん。2人は同じ新人賞出身で、今年デビュー10周年を迎える。いまミステリー界でもっとも注目を集める2人の同門対談が実現。デビューからブレイクするまでの苦労話や作品に込めた思いを語る。
(取材・文=吉田大助 撮影=鈴木慶子)
作風は似ていないけれど、
次に何が出てくるのか想像できないのは同じ
──お二人は同じ講談社BOX新人賞Powers出身で、作家生活丸10年の「ほぼ同期」です。その間に、兼業から専業になったという点も一緒なんですよね。
浅倉秋成(以下=浅倉):織守さんは、最近までずっと作家と弁護士を兼業されていたというのが本当にすごい。僕もサラリーマンだった時期はあったんですけども、毎日疲れちゃって全然書けなかったんですよ。
織守きょうや(以下=織守):厳密に言うと、1作目の原稿を送った時はもう弁護士だったんですけど、書いた時は弁護士ではなかったんですよね。できればプロになりたいけれど、専業になれるとは夢にも思えない。小説を書き続けられる状況を作るために、ちゃんとした仕事に就こうと思ったんです。弁護士をやっていた頃も土日は休めていましたし、書けてはいたんですけど、やっぱり専業になってからのほうがラクですね。「明日は大きい裁判がある……」とか、寝る前に考えて不安にならなくていいですし。
浅倉:僕は会社をすぐ辞めて、実家のお世話になりつつアルバイトしながら小説を書くようになりました。デビュー版元の編集さんから招集がかかったりして、2.5次元俳優さんの写真集イベントのスタッフとかやっていたんですよね。その現場で一緒になった女の子が、「私、映画のエキストラとかに行くのが趣味なんです」と言っていて。その子が行った撮影現場の一つが、織守さんの小説が原作の映画『記憶屋 あなたを忘れない』だった。「織守さん、映画化されてる。俺、バイトしてる……」ってなったことをよく覚えています(苦笑)。去年一人暮らしを始めて専業になって、ようやく下積み期が終わったところです。
織守:浅倉さんは作品の振り幅が大きいですよね。『教室が、ひとりになるまで』(2019年刊行)は特殊設定ミステリーでしたが、『六人の嘘つきな大学生』(2021年刊行)は痛いくらいリアルな青春ミステリー。最新作の『俺ではない炎上』は、逃亡者モノです。でも、どれも「浅倉秋成の作品だな」って感じるんです。
浅倉:そういうところが、昔は売りにくさだったと思うんです(笑)。
織守:でも、私もそうだし浅倉さんのファンはみんなきっと、そこが楽しい。「次はどんなのが来るのかな?」とワクワクします。
浅倉:織守さんの作品こそ振り幅がすごいじゃないですか。『花束は毒』(2021年刊行)であれだけイヤな気持ちにさせておいて(笑)、今回の『学園の魔王様と村人Aの事件簿』ではキュンとさせる。たぶんお互いの作風はあまり似ていないんですけど、次に何が出てくるか想像できないタイプなのは同じかなと思うんですよ。
織守:面白ければ何でもいいよね、というノリは同じですね(笑)。
〈後編〉高校生探偵と半グレ組織の対決がリアル! ともにデビュー10周年『俺ではない炎上』浅倉秋成×『学園の魔王様と村人Aの事件簿』織守きょうや対談──に続きます。
文芸WEBマガジン「カドブン」で公開中の浅倉秋成×織守きょうやの対談はコチラhttps://kadobun.jp/feature/talks/44t8oy9in800.html
浅倉秋成プロフィール
1989年生まれ。2012年に『ノワール・レヴナント』で第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞し、デビュー。19年に刊行した『教室が、ひとりになるまで』が第20回本格ミステリ大賞〈小説部門〉候補、第73回日本推理作家協会賞〈長編および連作短編部門〉候補となる。さらに、21年に刊行した『六人の嘘つきな大学生』も第12回山田風太郎賞候補、「2022年本屋大賞」ノミネート、第43回吉川英治文学新人賞候補となる。その他の著書に『フラッガーの方程式』『失恋の準備をお願いします』『九度目の十八歳を迎えた君と』がある。現在、「ジャンプSQ.」にて連載中の『ショーハショーテン!』(漫画:小畑健)の原作も担当。
『俺ではない炎上』あらすじ
ある日突然、「女子大生殺害犯」とされた山縣泰介。実名・写真付きでネットに素性が曝され、Twitterで犯行を自慢して大炎上。当該アカウントは実に巧妙で、見れば見るほど泰介のものとしか思えない。まったくの事実無根だが、誰一人として信じてくれない。ほんの数時間にして日本中の人間が敵になってしまった泰介は、逃亡して事件の真相を探る。
織守きょうやプロフィール
1980年、イギリス・ロンドン生まれ。早稲田大学法科大学院卒。元弁護士。2013年、第14回講談社BOX新人賞Powersを受賞した『霊感検定』でデビュー。15年『記憶屋』が第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞し、映画化される。21年『花束は毒』が第5回未来屋小説大賞を受賞。その他の著書に『夏に祈りを ただし、無音に限り』『朝焼けにファンファーレ』『幻視者の曇り空』『学園の魔王様と村人Aの事件簿』のほか「木村&高塚弁護士」シリーズの『黒野葉月は鳥籠で眠らない』『301号室の聖者』(8月4日発売予定)『悲鳴だけ聞こえない』(9月15日発売予定)などがある。
『学園の魔王様と村人Aの事件簿』あらすじ
普通の男子高校生・山岸巧は別のクラスのイケメン・御崎秀一に本を拾って貰い、彼のスマートさに憧れを抱く。しかし御崎には、ヤクザの孫だとか、先輩をボコボコにしたなど不穏な噂があった。ひょんなことから御崎のたぐいまれなる推理力を知った山岸は、彼の助手として学校や町で起こる事件の解決に挑むことになる。