SNSでの炎上をテーマにした『俺ではない炎上』が大ヒット中の浅倉秋成さん。そして、昨年『花束は毒』が大ヒットし、新著『学園の魔王様と村人Aの事件簿』を刊行したばかりの織守きょうやさん。2人は同じ新人賞出身で、今年デビュー10周年を迎える。いまミステリー界でもっとも注目を集める2人の同門対談が実現。デビューからブレイクするまでの苦労話や作品に込めた思いを語っていただいた。

(取材・文=吉田大助 撮影=鈴木慶子)

 

前編はこちら

 

主人公が追い詰められていく部分だけでも面白かったのに
「さらに大ネタを乗っけてくるのか!」って驚きました

 

──浅倉さんは『俺ではない炎上』を5月に、織守さんは『学園の魔王様と村人Aの事件簿』を6月に、お二人ほぼ同時期に新刊を出されました。織守さんの新刊の話はKADOKAWAの文芸WEBマガジン「カドブン」でたっぷりしていただくとして……こちらでは浅倉さんの新刊の話を。『俺ではない炎上』は、Twitterのなりすましによりネットで「殺人事件の犯人だ」とされて大炎上し、逃亡する羽目になった54歳のサラリーマン・山縣泰介の物語。複数の語り手がバトンタッチしていく群像劇スタイルの逃亡者モノです。

 

浅倉秋成(以下=浅倉):今回意識していたのは、あらすじを聞いて老若男女がこぞって手に取ってみたいと思うような、ポピュラーな題材選びをすることでした。そこからネット炎上というテーマが出てきて、逃亡者モノに繋がっていったんです。

 

織守きょうや(以下=織守):主人公が追い詰められていく話を長編でって聞くと、読んでいる側にもどんどんストレスが溜まっていきそうじゃないですか。でも、実際のところその心配は杞憂で、主人公が窮地に追い込まれれば追い込まれるほど、むしろぐいぐい引き込まれる。「君か、君が助けてくれるのか!」みたいな瞬間は自分のことのように嬉しかったです。しかも、ちゃんとミステリーじゃないですか。

 

浅倉:そうですね。細かくネタを仕込みつつ、やっぱり引っくり返したくなっちゃいました(笑)。

 

織守:ミステリー好きには馴染みのあるネタが入っているのですが、馴染みがあるぶん、それって途中で気づいちゃうことが結構あるんですよね。この手法で、ここまで気づかなかったのは我ながら珍しい。たぶんその理由って、そのネタがなくても十分面白いから。話の展開にどこか物足りなさがあったら、「どこかで引っくり返すつもりなんだろうな」って邪推してしまい、気づいてしまったかもしれない。話として面白かったから「このうえ大ネタを乗っけてくるのか!」って驚きましたし、まんまと手のひらの上で転がされました。

 

浅倉:嬉しいです。僕は今、本当に嬉しい……。

 

織守:読んでいる間は物語にのめり込んでいるんですけど、読み終わったら「これ、めちゃくちゃ計算して書かれているな」って気づいたんです。私はそういう話が好きなんですよ。私自身も、できるだけ計算して書きたいので。「俺はお前の魂のほとばしりを読みたいんだよ!」というタイプの読者からどう思われるかは不安ですけど(笑)。

 

浅倉:そのほとばしりが、面白ければいいんですけどね。「前段の話、どこへ行っちゃったの?」みたいなほとばしりだと、ちょっとまずい。例えば僕の場合、ネット炎上を題材にした今回の作品でもそうだし、就活が題材の『六人の嘘つきな大学生』でも、「社会に言いたいことがおありなんですね」とよく言われるのですが、その題材について書いていたら、たまたまメッセージ的なものが湧き出てきたって感じなんですよね。

 

織守:そのやり方が、物語とメッセージのいいバランスを作っているのかも。私も同じやり方なので、なんだか嬉しい(笑)。

 

浅倉:実は今回、主人公を追う側が必要だったので、警察を出したんです。基本に間違いがないように詳しく調べましたし、書くのにも緊張したんですよね。織守さんが書く警察だとか司法関連の描写は、情報を書き込んでいるわけではないのにすごく信頼感がある。弁護士をされていた経験が、強みになっているんじゃないかなと改めて感じました。また悪党描写もいいんですよね。『学園の魔王様と村人Aの事件簿』の中で、高校生コンビが対峙する相手として、半グレ集団が出てくるじゃないですか。きっちり統制がとれた犯罪集団とは違って、こういった小さな悪党は犯罪の手口が大胆であることは強みなんだけれども、抜けているところが多々ある。その感じが、妙に生々しかった。弁護士をされていた頃、ああいった存在の近くでお仕事する機会もあったんじゃないかと思いました。

 

織守:あの半グレ集団は完全に私の想像で書いたんですが、これまで見てきたものが出ているかもしれませんね。弁護士としての経験は、法律知識をトリックに使えるとか、弁護士の生活をリアルに書けるなぁぐらいしか思ってなかったけれど、犯罪の周辺に存在するいろいろなものは確かにいっぱい見てきたんです。弁護士をやっておいてよかったなって、今思いました。

 

浅倉:その流れで言うと、僕は織守さんの『黒野葉月は鳥籠で眠らない』(2015年刊行)が大好きなんですよ。世の中にはこういう法律の使い方があるんだっていう驚きを、人間ドラマとマッチングさせて、リーガルミステリーに仕立て上げているじゃないですか。新鮮だったしこんなことができる作家は果たして他にいるのかと、すごく驚いたんです。あの作品は、「織守きょうやここにあり」の作品だと個人的に思っています。なんでも、双葉社さんから再文庫化されるとか?

 

織守:丁寧なネタ振り、ありがとうございます(笑)。新装版が7月に発売されました。解説は小説家の芦沢央さんです。

 

浅倉:お値段は?

 

織守:税込み770円です! って、いつの間にか通販番組みたいになってる!!(笑)

 

浅倉:こういうノリが良くないんですよね。真面目な話をしても、僕はこういうしゃべり方だから、ちょっと軽いんですよ。作品の質が相対的に下がる気がするから、僕はあまり表に出るべきじゃないかもしれない……。

 

織守:なんで急にネガティブになったの!?

 

浅倉:こういう人間ですが、これからも小説を書き続けていきたいと思います。

 

織守:今度は急に真面目(笑)。お互い、書き続けていきたいですね。20年目にまた対談しましょう!

 

文芸WEBマガジン「カドブン」で公開中の浅倉秋成×織守きょうやの対談はコチラhttps://kadobun.jp/feature/talks/44t8oy9in800.html

 

浅倉秋成プロフィール
1989年生まれ。2012年に『ノワール・レヴナント』で第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞し、デビュー。19年に刊行した『教室が、ひとりになるまで』が第20回本格ミステリ大賞〈小説部門〉候補、第73回日本推理作家協会賞〈長編および連作短編部門〉候補となる。さらに、21年に刊行した『六人の嘘つきな大学生』も第12回山田風太郎賞候補、「2022年本屋大賞」ノミネート、第43回吉川英治文学新人賞候補となる。その他の著書に『フラッガーの方程式』『失恋の準備をお願いします』『九度目の十八歳を迎えた君と』がある。現在、「ジャンプSQ.」にて連載中の『ショーハショーテン!』(漫画:小畑健)の原作も担当。

『俺ではない炎上』
あらすじ
外回り中のサラリーマン、山縣泰介のもとに、会社から緊急の電話が入った。どうやら泰介が「女子大生殺害犯」であるとされて、すでに実名、写真付きでネットに素性が晒され、大炎上しているらしい。Twitterで犯行を自慢していたそうだが、そのアカウントが泰介のものであるとされてしまったようだ。誤解はすぐに解けるだろうと楽観視していたが、当該アカウントは実に巧妙で、見れば見るほど泰介のものとしか思えず、誰一人として無実を信じてくれない。会社も、友人も、家族でさえも……。ほんの数時間にして日本中の人間が敵となり、泰介は必死の逃亡を続ける。

 

織守きょうやプロフィール
1980年、イギリス・ロンドン生まれ。早稲田大学法科大学院卒。元弁護士。2013年、第14回講談社BOX新人賞Powersを受賞した『霊感検定』でデビュー。15年『記憶屋』が第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞し、映画化される。21年『花束は毒』が第5回未来屋小説大賞を受賞。その他の著書に『夏に祈りを ただし、無音に限り』『朝焼けにファンファーレ』『幻視者の曇り空』『学園の魔王様と村人Aの事件簿』のほか「木村&高塚弁護士」シリーズの『黒野葉月は鳥籠で眠らない』『301号室の聖者』(8月4日発売予定)『悲鳴だけ聞こえない』(9月15日発売予定)などがある。

『学園の魔王様と村人Aの事件簿』
あらすじ
普通の男子高校生・山岸巧は別のクラスのイケメン・御崎秀一に本を拾って貰い、彼のスマートさに憧れを抱く。しかし御崎には、ヤクザの孫だとか、先輩をボコボコにしたなど不穏な噂があった。ひょんなことから御崎のたぐいまれなる推理力を知った山岸は、彼の助手として学校や町で起こる事件の解決に挑むことになる。