2020東京オリンピックを機に刊行された話題のミステリー、森谷明子著『涼子点景1964』が待望の文庫化となりました。

 本作は、単行本刊行時に産経新聞、毎日新聞、週刊文春、週刊新潮、サンデー毎日、本の雑誌ほか、各紙誌で書評家に絶賛された、ミステリーファン垂涎の傑作です。

 この度の文庫化を記念し、あらすじと共に単行本の刊行時(2020年1月)に掲載された書評の一部をご紹介します。

 

【あらすじ】

 父は姿を消したのよ。私が9歳の夏に。それ以上のことを言わない、誰にも――。1964年オリンピック決定に沸く東京で、競技場近くに住む一人の男が失踪した。美しく聡明な娘は自分の居場所と夢を守るため、偶然と幸運と犠牲を味方につけ生き抜いてゆくことを誓う。時代の空気を濃密に反映させて描く、精緻にして全く予測不能な長編ミステリー。

 

【書評】

パッチワークのようにちりばめられた謎や伏線が、緻密な構成によって一本につながり、ヒロインの心情が最後に明かされる。敗戦から19年という年月、オリンピックのために急ピッチで進むインフラ整備。この時期でなければという必然性もある、少女の成長と謎を描いた出色のミステリーである。

西上心太氏(毎日新聞 2020年2月1日付)

 

話者が交替しながら語られる涼子の物語はどれも断片的で、新しい事実が浮かんできても決定的な手がかりにはならず、かえってそれが少女の実像を覆い隠してしまうように感じられる。だからこそ、そうした細片が寄り集まって一つの図を形作る終章には驚きが生じるのだ。意志強く生きようとした少女の姿がそこでは浮かび上がってくるはずだ。

杉江松恋氏(週刊新潮 2020年2月13日号)

 

多くの人間の想いが結びついて、ひとりの女性の数奇な人生を浮かび上がらせる精緻な構成が感動を呼ぶし、著者自身が幼い日を過ごした1960年代の時代相の再現も真に迫っている。

千街晶之氏(週刊文春 2020年2月27日号)

 

国家的賑わいの中、過酷な運命に翻弄されながら生きる少女。深く胸に沁み込む物語だ。

岡崎武志氏(サンデー毎日 2020年3月29日号)

 

 ミステリー読みのプロも魅了された主人公・涼子の人生を、ぜひ本書で追ってみてください。