「親ガチャ」という言葉があるように、子にとって親は、自分では選ぶことの出来ない存在だ。
今話題の小説『タカラモノ』は、家庭の外に恋人を作り、世間の常識に囚われず自由に生きる“困った”母親のもとで育った少女・ほのみが、自立した大人の女性になるまでの成長を描いた物語である。
主人公のモデルでもある著者の和田裕美さんは、かつて外資系企業での営業成績で世界第2位にもなったことのあるビジネスパーソンであると同時に、著作累計220万部を超えるビジネス書作家でもある。
磨き抜かれた成功哲学で数多くの人の背中を押し、前向きなエネルギーを与え続けてきた和田さん。その土台となった「自己肯定感」は、意外なことに“困った母親”に育まれたものだという。
決して、世間から見て「正しい母」「良き妻」ではなかった一人の女性から、娘である著者が受け取った最大の“学び”とはなんだったのか。このたび、和田さんに小説『タカラモノ』についてお話をうかがった。
【あらすじ】
ママは子供を放って時に男と出て行ってしまう、どうしようもない母親だ。けれどその自由な生き方に魅了され、周囲の誰もが彼女を愛してしまう。人を好きになるということは何か? 勇気を与えるということは何か? 「幸せになりたいんやったら、誰かのせいにしたらあかん」。「どうぞ、グレてください」。そう口にする型破りなママから、わたしは人生でなによりも大切なことを教わっていく──。読めば糧になること間違いなし、人生を変える感動の物語。
モラルを超えたところにあった、誰もが憧れる「母の生き様」
和田裕美(以下=和田):この作品は、わたしが実際に育った家庭をモチーフとしています。放任主義な母、ケチでいじわるな父、生真面目な姉と、引っ込み思案のわたし……すごくポンコツですよね(笑)。わたし自身、自分の過去やあの当時の家庭環境は受け入れ難いものだったし、父親とは母親が亡くなってから親子の会話がようやくできるようになったけれど、普通に二人っきりでいるのはしんどかったんです。
でも、わたしの人生ってあの「過去」のおかげでやっぱりどんどん開けていったんです。「家族」としてはダメだったけれど「人間」としての学びを実は得ていたのではないかと、次第に考えるようになりました。
家族として、親としてはダメな人でもほんとうはモラルを超えたところに案外、憧れるような「生き方」があったのではないかと。だから、父が死んでからこの過去を物語にしたくなったんです。
──ほのみの母親は、外で恋人を作って家を出てしまったり、ほのみに「どうぞ、グレてください」と言い放ったり、全然「正しい母親」ではないですよね。けれど、なぜか周囲のみんなは彼女を愛してしまいます。ほのみの母親の魅力とは、一体どこにあったのでしょうか。
和田:“潔さ”だと思います。作中でも、「私は私の人生を生きる。他の人は関係ない。そして全部自分で責任をとる、明日死んでも後悔しない」こう言い切っているわけですよね。そうやって生きているからこそ人にも世の中にも、とても寛容なのです。わたしたちって結構、寛容になれなくて苦しんでいませんか?
──「親ガチャ」という言葉もありますが、主人公のほのみも、自分にはどうしようもない環境があり、苦労を背負った一人です。しかし、自分の不遇に嫌気が差したほのみが「ママのせいやで」と言い募ると、逆に母親から意外な言葉を返されるシーンが印象的でした。
和田:他人に寛容になれないと、「こうあるべきなのに」「なんでわかってくれないの?」って不快になるし、自分にも寛容になれなくて「こういう人でいなくっちゃ」「自分はダメな人間だ」となってしまう。それって苦しいんです。
でもその世界で生きるしかないじゃないですか。だからこそ、ほのみに対してママはあのように言い返しました。きっと、正しい親ならこうは言わない。けれど「自分の人生に責任を持つ」を体言して生きているからこそ、ほのみのママは潔くてかっこいいわけです。世間の常識を超えたところの存在だからです。ぜんぜんダメなのにすごくかっこいいという矛盾が彼女の魅力なんだと思っています。
【後編】「成功した人からの指南書」を読んでも、その人にはなれない──に続きます。
●プロフィール
和田裕美(わだ・ひろみ)
小説家・ビジネス書作家・ビジネスコンサルタント。京都出身。『世界No.2営業ウーマンの「売れる営業」に変わる本』を上梓しデビュー。著書の累計は220万部を超え、女性ビジネス書作家の先駆けと呼ばれている。『成約率98%の秘訣』『人に好かれる話し方』『和田裕美の営業手帳』など著作多数。
▼「タカラモノ」の試し読みはこちらから
https://colorful.futabanet.jp/articles/-/1476