著作累計230万部を超えるビジネス書のカリスマ・和田裕美氏が上梓したお仕事小説は、人材派遣会社を舞台に、新入社員の初芽がパワハラやセクハラの横行する会社で効率主義中心の企業体質にメスをいれていく奮闘記だ。和田氏自身の経験をもとにした仕事の技術が満載なだけではなく、ビジネスの可能性を追求すべく、「非生産的」というレッテルを貼られた人々にフォーカスされている。社会で働く意味とは? 本当の意味での生産性とは何か? 和田氏に、どのような思いを込めて本作を執筆したか、お話を伺った。

 

効率を求めすぎることで、近い未来にたくさんのお客さんを失うことにつながる。これから会社にとって必要な人たちとは?

 

──和田さんの小説第一作『タカラモノ』は親子の物語でしたが、2作目で「会社」を舞台にしたお仕事小説を執筆したきっかけはなんですか?

 

和田裕美(以下=和田):最初は双葉社の担当編集、田中さんに「次はお仕事小説でも」と提案されたのがきっかけです。ただ、いざ書くとなったときにこれからは働き方が変わるのではないか? というか、変わっていく必要があるのでは? という思いを物語に投影しようと決めました。結果主義、生産性だけでは人の心は癒されないと強く思っていたからです。

 

──この作品を作るときに、苦労したポイントや、書いていて楽しかったシーンなどがあれば教えて下さい。

 

和田:わたしが生きている現実のビジネス世界はまだまだ、効率、生産性、スピードが重要とされています、ビジネス書もしかり。つまり、小説の内容はわたしの理想であって、現実は真逆です。器用ではないので、毎日のメルマガを書いたり、講演したあとに小説を書く──となると、脳の発想を変える必要があるのですが、なかなか切り替えることができなくて、それがなにより私を悩ませました。けれど、年齢も性別も違う登場人物の心情を想像して言葉にする作業は、そんな悩みを吹っ飛ばすほどいつもわくわくさせてくれました。

 

──主人公の初芽が“AI推進部”という、会社の「使えない社員」ばかりが集められた部署に異動するところから物語が始まります。ビジネス書を数多く手がけてきた和田さんが、AI推進部メンバーのような“スポットライトの当たらない人物”を主人公にしたのはなぜですか?

 

和田:生産性ばかりが問われる社会では、そのルールにそぐわない人たちは「仕事ができない」と決めつけられてしまうことへの疑問がまずありました。人はみんな違う、それぞれの成長スピードも価値観も違う。多様性を声高に叫ぶわりに評価基準だけ古いままだと人口減のこの日本で会社って存続しないのではないか? と思っています。

 これから大切にしないといけない社員は、末長く会社のファンになってくれるお客さんを作れる人たちです。それを伝えたいと強く思ったんです。この日本にはもう、あまり時間がありませんので。

 

──ビジネスの社会では常に競争を強いられますが、本作ではそれに対して抗う行動をとるような、利他的な優しさを持つ人々が描かれています。「効率の良さ」と、「人への思いやり」を、和田さんはどのようなバランスで実践していこうと考えていますか?

 

和田:おそらく読んだ方のなかには「こんなのはきれいごと」と捉える人も多いかと思います。現実的にはそうでしょう。生産性を上げて売り上げを伸ばさないと企業が存続できないことはみな理解しています。

 けれど、しだいに社会は変化していきます。効率を求めすぎると心のこもった対応に割く時間は皆無となります。それは近い未来にたくさんのお客さんを失うことにつながるのです。だからこそこれから会社にとって必要な人たちは効率主義ではなく、時間がかかっても目の前の人を幸せにしたいと思っている人たちだと考えます。

 

(後編)に続きます

 

【あらすじ】
人材派遣会社で働く初芽は、営業部での成績がふるわず上司から叱責される日々。ついに、会社中の使えない社員が集められたという噂のAI推進部へ異動になった。パワハラ、セクハラの横行する理不尽に耐えるのは、生産性の低い無能な社員だから? 「逃げたらいい」と「逃げ場なんてない」の狭間で揺れ動く初芽だが──。輝かない人々に当たる心温まるスポットライトは、これまでと同じ世界を新しい見え方へと変えてくれる。ビジネスの世界に精通した著者が従来と真逆の価値観で描く、決してかっこよくないヒーローたちの物語。

 

和田裕美(わだ・ひろみ)
小説家・ビジネス書作家。『世界No.2営業ウーマンの「売れる営業」に変わる本』を上梓しデビュー。『成約率98%の秘訣』『人に好かれる話し方』『和田裕美の営業手帳』など著書の累計は230万部を超え、メディアにも多数出演。自身の生い立ちをモチーフにした初の小説『タカラモノ』(『ママの人生』を改題)は大きな反響を呼び、舞台化に。2冊目の小説となる本作は、ビジネス書とはまったく違う価値観で、「働くこと」「生きること」の価値観を掘り下げていく注目作。