著作累計230万部を超えるビジネス書のカリスマ・和田裕美氏が上梓したお仕事小説は、人材派遣会社を舞台に、新入社員の初芽が、パワハラやセクハラの横行する会社で効率主義中心の企業体質にメスをいれていく奮闘記だ。和田氏自身の経験をもとにした仕事の技術が満載なだけではなく、ビジネスの可能性を追求すべく、「非生産的」というレッテルを貼られた人々にフォーカスされている。社会で働く意味とは? 本当の意味での生産性とは何か? 和田氏に、どのような思いを込めて本作を執筆したか、お話を伺った。
仕事が「好きじゃないけど、楽しい時もある」という瞬間を持つことで、次のステップへのドアが開く
──初芽は会社の外で、アクアショップを営む大森という人物と出会い、「外から見る視点」を獲得していきます。物語を通して初芽はどんどん成長していきますが、彼女の強さはどんなところにありますか。
和田裕美(以下=和田):初芽は、最初のうちは水槽の「中」にいる人でした。だから溺れて呼吸困難になっていたのです。
しかし、大森との出会いによって、水槽を「外」から眺める方法を学びます。
そうして、全体を見渡すことで怖がっていたことの本質を知り、次第にちっとも怖くなくなっていく。それが圧倒的な彼女の強さですね。
──「会社を辞めたい」と思っていた初芽は、次第に考え方が変わっていきます。「今いる環境から離れたい」「仕事を辞めたい」と思っている読者も多いかと思いますが、そういった方々にメッセージがあればお聞きしたいです。
和田:今は売り手市場で、仕事はたくさんあります。転職もしやすい世の中です。だけど、転職したからといって前職が余程のブラック企業でもない限りはすべての問題が解決することは滅多にありません。苦手な人はどこにでもいるし、自分の能力が転職だけで伸びるはずもない。
目の前のことをもっと掘り下げていけば、まだ学べることがある、そこにもしかしたら天職といえるものがあるかもしれない。逃げたらいいというフレーズが流行っていることに対して「ほんとうにみんな逃げていいの?」とわたしは問いかけたいのです。
──本作を執筆して、和田さんの中で変化はありましたか?
和田:一作目は自分の経験から書き進めることができましたが、本作はすべてが創作です。物語を動かすために、どんな出来事を仕込むのか? それによってどんな心理になるのか? とひとつひとつ考える作業や、行ったこともない場所の描写など、手間と時間がかかる作業に音をあげそうになりました。
けれど、そろそろ書き上がりそうなときに編集の田中さんに「大変な山を登りました!これであとが楽になります」と励ましてもらい、「ああそうかわたしは登山できるように鍛えたんだ」と思えたんです。そのときに気がつきました。これはちょっと自分の人生を大きく変えてくれるくらいの“山登り”だったのだと。
──次作はどんなものを書いてみたいと思われますか?
和田:やっぱり、心が元気になる物語を書きたいです。そういうと、文学とは違うものになりそうですが……(笑)。わたしは「すかっ」したいし、感動したいし、ほっとしたいんです。
──最後に、これから読む読者へ、読みどころや楽しんで頂きたいところなどを教えてください。
和田:わたしたちの社会、そして会社。働くことが嫌になるほどの理不尽さはまだまだどこかにあるはずです。今回の小説で実際にいろんな現場で働く人を調べましたが、やっぱり「好き」で仕事している人より「生活のため」に仕事をしている人が多いんです。
きらきらした世界ばかりSNSでみていると自分が惨めになってちっぽけな存在に感じてしまうかもしれないけれど、自分の今やっていることだってきっと誰かを助ける、大切な仕事です。そんなちいさな幸せのかけらに気づいて「好きじゃないけど、楽しい時もある」という瞬間を持ってもらいたいです。あ、夢がない話をしているのではなく、そう思うことで次のドアが開くからです。
【あらすじ】
人材派遣会社で働く初芽は、営業部での成績がふるわず上司から叱責される日々。ついに、会社中の使えない社員が集められたという噂のAI推進部へ異動になった。パワハラ、セクハラの横行する理不尽に耐えるのは、生産性の低い無能な社員だから? 「逃げたらいい」と「逃げ場なんてない」の狭間で揺れ動く初芽だが──。輝かない人々に当たる心温まるスポットライトは、これまでと同じ世界を新しい見え方へと変えてくれる。ビジネスの世界に精通した著者が従来と真逆の価値観で描く、決してかっこよくないヒーローたちの物語。
和田裕美(わだ・ひろみ)
小説家・ビジネス書作家。『世界No.2営業ウーマンの「売れる営業」に変わる本』を上梓しデビュー。『成約率98%の秘訣』『人に好かれる話し方』『和田裕美の営業手帳』など著書の累計は230万部を超え、メディアにも多数出演。自身の生い立ちをモチーフにした初の小説『タカラモノ』(『ママの人生』を改題)は大きな反響を呼び、舞台化に。2冊目の小説となる本作は、ビジネス書とはまったく違う価値観で、「働くこと」「生きること」の価値観を掘り下げていく注目作。