「垣谷さん、どこかで私のこと見てました!?」と思わず聞きたくなってしまう圧倒的共感度でファンの支持が厚い作家・垣谷美雨さん。次々と話題作を送りだす著者が今回描くのは、“遺品整理”。捨てたい人にも捨てられない人にも読んでほしい、面白くて役に立つ終活エンターテインメントです!

「小説推理」2019年4月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューと帯で、『姑の遺品整理は、迷惑です』の読みどころをご紹介します。

 

捨てたい嫁、捨てない姑の家を片づけるはめに──どうしてこんなに溜め込むの!?切実すぎる叫びに共感必至!「実家じまい」応援小説

 

重くて大きい家電製品、出るわ出るわの日用品……“もったいない”が積み重なって、次世代の悲劇に!これを読めばもう怖くない、前向きな「お別れ」ができるはず

 

■『姑の遺品整理は、迷惑です』垣谷美雨  /大矢博子:評

 

姑が亡くなり、遺品を整理することに。一人暮らしなのにどうしてこんなに物が多いのか! 笑って泣ける、共感度MAXの「死後から始まる」家族物語。

 

 か、垣谷さん、言い方!

 表紙を見た瞬間、あたふたしてしまった。『姑の遺品整理は、迷惑です』って、そんな! 姑に見られたらどうするんだ。いえ、違います、違いますよおかあさん、迷惑だなんてとんでもない、私は喜んで整理を……いや、喜んでってそういう意味じゃなくてっ!

 この小説のおかげであわや大惨事である。

 だが一読して気が変わった。これは姑にも読ませなければなるまい。夫にも。

 本書の主人公は堀内望登子、50代の主婦だ。団地で一人暮らしをしていた姑が亡くなり、部屋を引き払う必要もあって遺品整理に赴いた。

 古い団地でエレベータなしの4階。収納はたっぷり。モノを捨てないタイプの姑だったため、遺品の多さは尋常じゃない。一人暮らしとは思えない蒲団の数に食器の量。衣類、小物、食品、新聞紙。粗大ゴミや資源回収に出すものはちゃんと分けてルールを守らねばならない。なぜ一人暮らしにこんなに物が必要なのか。どうして死ぬ前に、もうちょっと整理しようと思わなかったのか。ただでさえうんざりしているところに、さらに不穏な出来事が。誰かが部屋に出入りしているような……?

 実に身につまされる設定なんだが、これが実に楽しい。とにかく「あるある」のオンパレード。特に夫の無責任な提案には、主婦なら全員が「あるわー」と天を仰ぐことだろう。「遺品整理マニュアル」としてとても実用的だ。

 だが、もちろんそれが小説の趣旨ではない。注目すべきは望登子の変化だ。

 望登子は捨てることばかりを考えていた。だが繰り返し姑の家に通う過程で、遺品から姑の生前の生活が次第にわかってくるのである。「どうしてこんなものをとってあるんですか!」と怒りながらも、それはまるで、もう言葉をかわすことのできない相手と、遺品を通して会話しているかのようだった。近所の人が姑の話をしてくれる場面もいい。亡くなって初めて知る姑の姿。

 ひとつひとつが沁みる。遺された物が、人を語るのだ。遺品を片付けるということは、その人の姿を心に刻み付ける儀式であり、最後のコミュニケーションなのかもしれない。遺す人、遺される人の両方が必読の1冊だ。

 ……それでもやっぱり、もう少し整理しておいてもいいんじゃないかと思いますよ、おかあさん。