濃密な世界観と圧倒的筆力で衝撃を与えたベストセラー『雪の鉄樹』(光文社文庫)を始め、直木賞候補となった『銀花の蔵』(新潮社)など次々と話題作を上梓する著者の最新文庫『ドライブインまほろば』が発売となりました。

 義父を殺し幼い妹を連れて逃げる少年、娘を亡くし山奥でひっそりと暮らす女、親に捨てられ双子の弟を殺された男──人生から逃げ出した3人の運命は? 「家族の愛」と「生きる意味」を問いかける心震える感動の物語。ぜひ結末を見届けてください。

 発売即重版を記念して、書評家・北上次郎さんのレビューをご紹介します。

 

■『ドライブインまほろば』遠田潤子  /北上次郎:評

 

息を呑むように私たちはページをめくっていくことになる

 

 遠田潤子の作品を初めて読んだのは『雪の鉄樹』だった。これ、遠田潤子の第4作である。それまでの4作、すなわち『月桃夜』『アンチェルの蝶』『鳴いて血を吐く』を未読であったのに、どうして『雪の鉄樹』をあのとき手に取ったのか、いくら考えてもわからない。読むなり、ぶっ飛んだ。なんなんだこれは!

 ここは『雪の鉄樹』を語る場ではないので、そのストーリーは紹介しない。とにかくすごい、と書くにとどめておく。なぜお前は耐えているのか。読んでいると息苦しくなってくるのだ。こんな小説、読んだことがない。過剰な愛憎劇は、遠田潤子の物語を貫く重要なキーワードであるのだが、それを知らずに読んだのでぶっ飛んでしまったのである。困るのは、遠田潤子の小説を読むと、もっともっと読みたいという気持ちになることで、それを「遠田潤子シンドローム」という。『雪の鉄樹』を読んでから急いで前3作を読み、それからは新刊が出るたびに全作読んでいるが、それも「遠田潤子中毒」に私がかかってしまったからにほかならない。

 本書『ドライブインまほろば』も、いつもの遠田潤子だ。息苦しい物語だ。

 旧道沿いで細々と営業を続けているドライブインにある日、夏休みが終わるまで、ここに置いてくださいと、幼い妹を連れた少年が逃げ込んでくる。寂れたドライブインを経営している比奈子がそれを受け入れたのは、彼女にもさまざまな事情があったからだ。

 その近くに、10年に一度だけ現れる幻の池があり、その十年池で一晩過ごせば生まれ変わることが出来る、というのがこの地に伝わる伝説である。それを聞いてから少年は、幻の池を探し続ける。彼が義父を殺して逃げてきたことを読者はすでに知らされている。つまり少年は義父を殺すような人生ではなく、別の人生を生きたいのだ。

 はたして彼は十年池を見つけることが出来るのか。息を呑むように私たちはページをめくっていくことになる。