物語の舞台は、山深い秘境の村を走る旧道添いに佇む「ドライブインまほろば」。店主の比奈子が1人で切り盛りする寂れた食堂だ。かつての賑わいはもうない。ある暑い夏の日、憂と名乗る12歳の少年が幼い妹を連れて突然現れる。「夏休みが終わるまでここに置いてください」と必死に懇願する2人に困惑する比奈子だったが、事故で亡くした愛娘の姿が甦り、追い返すことができなかった。

 その夜更け、憂は嗚咽まじりに義父を殺して逃げてきたことを告白する。憂の言葉に衝撃を受けた比奈子は、子供たちを守ることを誓い、ひと夏の共同生活を始めた。束の間、疑似家族のように暮らす3人だったが、一方で、たった1人の肉親である双子の弟を殺された男、銀河が憂の行方を追っていて──。

 家族の愛とは、生きる意味とは何かを問う感動長編、待望の文庫化を記念して著者からのメッセージをお届けする。

 


【著者からのメッセージ】
 ドライブインが好きでした。特に真夜中。ケチャップたっぷりのアメリカンドッグを食べながら、暗い道路を行き交う車のライトを眺めるんです。たとえ家族や友人が一緒だったとしても、自分はたった一人のような気がしたのを憶えています。でもそれはただの寂しさではなく、ふわふわした高揚感を伴うものでした。自分の家から離れてずっと遠く、縁もゆかりもない場所にいる。ドライブインはうっとうしい日常から逃げ出す快感だったんです。

 今、各地のドライブインは激減しました。旅先でかつて賑わったであろうドライブインの廃墟を見かけると、なんとも言えない物哀しさを感じます。そのときのいたたまれない気持ちが、本作を書こうと思ったきっかけです。
 
本来のドライブインは旅人が身と心を休める場所です。単なる通過点に過ぎず、旅人は家へ帰っていきます。でも、家に帰れない人は? 帰る家のない人はどうしたらいいでしょう。

 寂れて閑古鳥の鳴く「ドライブインまほろば」には、人生から逃げ出してきた三人が集います。年齢も性別もバラバラですが、それぞれに重い罪を抱えています。絶望のどん底にいる彼らは生まれ変わることができるのか? 果たして奇跡は起こるのか? どうか見届けていただけたら幸いです。

遠田潤子

 

遠田潤子(とおだ じゅんこ)

1966年大阪府生まれ。関西大学文学部独逸文学科卒。2009年『月桃夜』で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。12年『アンチェルの蝶』が第15回大藪春彦賞候補。14年刊行の『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベストテン」第1位となりベストセラーに。17年『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位。同年『冬雷』が第1回未来屋小説大賞受賞。18年同作が第71回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門候補。19年『ドライブインまほろば』が第22回大藪春彦賞候補。20年『銀花の蔵』が第163回直木三十五賞候補。他の著書に『蓮の数式』『廃墟の白墨』『紅蓮の雪』『緑陰深きところ』などがある。