■『ほろよい読書』織守きょうや 坂井希久子 額賀澪 原田ひ香 柚木麻子

 

 子どもの頃は、大人になるのが待ち遠しかった。大人が美味しそうなお酒を飲む姿は、人生の特別な楽しみを知っているようで、早くその愉悦を味わってみたかった。

 けれど、実際に大人になってみれば、ただ愉快にお酒を飲んでいるだけの大人はどこにもいないことがわかる。社会に出て理不尽を知り、仕事に追われ、苦い経験が増えていく。家事や育児に奔走し、自分の時間がなかなかとれなくなる。

 それでも明日から頑張るため、お酒を飲んで、憂さを晴らしたり、疲れを癒したり、ひと息吐いて自分の時間を取り戻したりする。

 本作『ほろよい読書』は、今注目の5人の作家がそんな「お酒」をテーマに描いた短編小説集だ。

 


織守きょうや×洋酒入り菓子
 伯母の旧友に会った姪は、憧れだった伯母の思わぬ秘密を知ってしまう。(『ショコラと秘密は彼女に香る』)

坂井希久子×果実酒
 独身のキャリアウーマンが夢中になる、家での密かな楽しみとは。(『初恋ソーダ』)

額賀澪×日本酒
 実家の酒蔵を継ぐことに悩む一人娘が、ライバル酒蔵の跡取りに将来への不安を打ち明けると……。(『醸造学科の宇一くん』)

原田ひ香×食中酒
 酒の飲み方が原因で夫に離婚を切り出された妻は、ある計画をする。(『定食屋「雑」』)
 
柚木麻子×カクテル
 コロナ禍でバーテンダーが依頼されたのは、保育園の保護者達が集うオンライン飲み会での接客だった。(『bar きりんぐみ』)
 

 

 登場人物の年代、お酒の種類は様々だが、どの物語にも、思わず手を伸ばしたくなる美味しそうな一杯と、毎日を一生懸命生きる人間ドラマが詰まっている。

 お酒を用意し一緒に嗜むもよし、文章に酔いしれるのもよし。はじめは苦いと感じていた飲み物が、色んな経験を重ねて大人になっていくほど「美味しい」と思えるように、失敗した日、大変な日があるからこそ、これまでよく頑張ってきた自分へお疲れ様と言ってほしい。

 ご褒美の一杯を「読んで」味わえば、明日の糧になること間違いなし。心を潤す短編集を、この冬にぜひ。