家康の天下取りを足軽からの視点で描いた「三河雑兵心得」シリーズが、この度、宝島社発行の「この時代小説がすごい! 2022年版」で、文庫書き下ろし時代小説ランキングの第1位に選ばれた。
戦国時代の三河を舞台に、村を飛び出した17歳の茂兵衛が松平家康の家臣に拾われ、足軽稼業に身を投じるところから始まる本シリーズは巻を追うごとにファンを増やし、昨年は時代小説紹介サイト「時代小説SHOW」文庫書き下ろし時代小説ベストテンにて第1位を獲得、ついには50万部を突破した。
さらには、12月16日に発売された「この時代小説がすごい! 2022年版」において、文庫書き下ろし時代小説ランキングの第1位に選ばれている。
著者の井原忠政さんは、2000年に脚本「連弾」が第25回城戸賞に入選し、経塚丸雄名義で脚本家デビュー。主な作品に『鴨川ホルモー』『THE LAST-NARUTO THE MOVIE-』などがある。2016 年『旗本金融道(一) 銭が情けの新次郎』で時代小説デビューし(経塚丸雄名義)、翌年、同作で第6回歴史時代作家クラブ新人賞を受賞した。2020年、ペンネームを井原忠政に変えて歴史時代小説「三河雑兵心得」シリーズの刊行を開始した。
時代小説といえば、江戸の市井を舞台にした作品がほとんどの中で、戦国時代を舞台に、しかも主人公を英雄や豪傑ではなく、軍隊では最下層の足軽に据えたところが新鮮、かつリアルと評判を呼んでいる。実際に作品の中で、甲冑のつけ方や戦支度、行軍の様子、槍での戦い方、鉄砲の撃ち方が詳しく語られ、合戦の様子や戦法の解説が末端から丁寧に描かれるので、あまり歴史に詳しくない読者でもイメージしやすく、次から次に読み進められると好評だ。
読者からの声を拾ってみると、「ちょっとずつ出世していくのがいい」「日本版キングダムを目指してほしい」「平社員的には身につまされる」などと、汗だく血だらけ泥まみれになりながらも、しぶとく生き残り、少しずつ出世していく茂兵衛の奮闘ぶりに共感と賛辞が寄せられている。カバーイラストで、身につける甲冑や兜が少しずつ豪華になっていくことを楽しみにしているファンも多いようだ。
もちろん主人公である茂兵衛の魅力も忘れてはいけない。文芸評論家の細谷正充さんは、そんな茂兵衛について「乱暴者だがお人好し。槍に優れ、敵を殺して出世していく。だが一方で、相手の事情や年齢を知って、敵を見逃すこともある。また、首を獲ることが苦手で、しばしば首級を放棄するのだ。どんなに出世しても武士の美学を持たず、人間臭い感情を露わにする茂兵衛は、それゆえに格好いいのである。」と語る。
さて、現在のところ第7巻まで刊行されている「三河雑兵心得」だが、物語はまだ半ば。宿敵の武田が滅び、信長という重石もなくなり、シリーズは大きな転換期を迎えたと言っていい。家康も三河半国の小領主から五ヶ国の太守となり、いまや天下も薄っすらと見える立場となった。茂兵衛曰く、人相も悪くなった。
そして、いよいよ待望の第8巻『小牧長久手仁義』が、2022年2月9日に発売される。
戦国武将として覚醒しつつある家康が、新たに対峙する相手は秀吉。信長が築きあげた帝国をすべて手に入れた圧倒的実力者である。対決へと気勢を上げる徳川家臣団に頭を悩ませる家康はどう動くのか。そして、茂兵衛が今度はなにを命じられるのか。信長なき世をめぐり事態は風雲急を告げ、茂兵衛たちは新たな戦いに身を投じていく。
著者・井原忠政さんのインタビュー公開中!
https://youtu.be/LxmQsVuuZ-A