2019年に刊行された『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(双葉社)で話題を集めたミステリ作家・青柳碧人さん。「浦島太郎」や「鶴の恩返し」といった“昔ばなし”をモチーフとしたミステリは、瞬く間にベストセラーとなった。続く『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』(双葉社)では、「シンデレラ」や「ヘンゼルとグレーテル」などの西洋童話をベースに連作短編ミステリを執筆。そしてシリーズ最新作『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』(双葉社)では、シリーズの原点となる“日本の昔ばなし×本格ミステリ”の発想で、「竹取物語」「おむすびころりん」など5つの昔ばなしを読み解いている。
(取材・文=三田ゆき 撮影=内海裕之)
──日本の昔ばなしや西洋童話をモチーフに取り上げるというのは、斬新なアイディアですね。「竹取物語」や「赤ずきん」などのベースとなるエピソードは、どのように選んでいらっしゃるのでしょう?
青柳碧人 1冊目の『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は、トリック先行で考えました。昔ばなしに出てくる不思議な道具、たとえば、「一寸法師」なら「打出の小槌」、「花咲かじいさん」なら「撒けば花が咲く灰」などを使って、ちゃんとトリックを考えてみたいと思ったんです。ただ、そういった不思議な道具は、昔ばなしの中にもそこまで多くありませんから、だんだんと難しくなってきてしまった。ですから、『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』では、「竹取物語」の中の「5人の求婚者が持ってくる不思議な品物」でトリックを作ろうと、思いっきりその気持ちをぶちこみました(笑)。
今作は、タイトルを先に思いついたものも多かったですね。「竹取物語」をベースにした「竹取探偵物語」は、タイトルと、「探偵物語風に一人称で語ってみたらおもしろいんじゃないか」という発想から生まれた短編です。探偵物語風なら、主人公はおじいさんではなく若い人のほうがいいと考えて、主要人物も変更。昔ばなしっぽくないかもしれない、受け入れてもらえるだろうかという不安はありましたが、映画『探偵はBARにいる』みたいなことをやりたかったんですよね、「竹取物語」で。そういうタイプの主人公だと、女運はあまりない。ロマンスの気配があっても、最終的には成就しないだろうって、プロットまでするすると決まっていきました。「竹取物語」をハードボイルド風に……なんて、たぶん僕しかやらないでしょ(笑)。だから、成功するかどうかわからなくても、やってみる価値はあるなと思ったんです。
──シリーズの幕開けとなった『むかしむかしあるところに、死体がありました。』と、同じく日本の昔ばなしをベースにした最新作『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』。意識して変更された点はありますか?
青柳碧人 1作目の『むかしむかしあるところに、死体がありました。』のときは、「密室」や「アリバイ」「絶海の孤島」や「倒叙」といったわかりやすいミステリの定番を5つの短編のテーマにすると決めて、ミステリを知らない読者にもわかりやすくという気持ちで書きました。でも、昔ばなしに登場する“不思議な道具”と同じで、“ミステリの定番”ってそんなにたくさんあるものじゃないんです。ミステリに慣れている方からは、たしかにいろいろと出てきますよ。「交換殺人」とか「衆人環視の密室」とか、「後期クイーン問題」とか……。でもそうなると、ちょっとマニアックになっちゃうよなと。そこで引っ張り出してきたのが、それぞれの短編でミステリのテーマを決めた上での、「繰り返しもの」などの設定です。今後、もし続編を書くとしたら、「法廷ミステリ」とか「時刻表もの」とか、設定に着目することになるかもしれませんね。
──続刊のご予定は?
青柳碧人 『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』の続編を、双葉社の文芸誌「小説推理」に連載していて、第2話まで掲載されています。前作と同じく4話構成を予定しています。赤ずきんが旅をしながら、行く先々で事件に巻き込まれるというスタイルはそのまま、今回は、相棒役としてピノキオが登場しますよ。
僕は、このシリーズももちろん、ミステリをあまり知らない読者、難しそうだと思っている読者に、「ミステリっておもしろい」と思ってもらえるといいなと考えて書いています。僕の本から入って、ほかの作家のミステリを読んでくれたらすごくうれしい。それに今回は、ある書店員さんに、「シリーズ最新作の『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』から読んだけれど、すごくおもしろいので、前作を読み始めました」と言ってもらえたんです。どこから読んでもおもしろいと言ってもらえるところも、このシリーズのいいところになったんじゃないかなと思います。
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●人気声優・福山潤さんによる朗読「竹取探偵物語」
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