浅草天王町の札差「坂田屋」の娘、お亀久は、元は男勝りのお転婆だったが、六年前にかどわかしに遭ってから、見知らぬ男と血を恐れ家から出られなくなった。さらには、幼馴染みの許婚が山崩れに巻き込まれ行方知れずに。絶望したお亀久は大川に身を投げようとする。嘆き悲しんだ母は命の尊さを教えようと、「産婆の神様」と呼ばれる八丁堀のおタネ様のところにお亀久を連れていく。初めは恐れ慄いていたお亀久だが、産婆は女相手の仕事だから男の出る幕はないと耳にし、思わず見習いを申し出る。