「女が書いたものなんざ」――日本近代文学の黎明期、まだ女性の書き手がほとんどいなかった明治時代。小説家になることを夢見る十七歳の宮島冬子は、当代一の文学者・尾形柳後雄のもとで女中をしながら執筆に励んでいた。同じ志を持つ男弟子たちが次々と引き立てられていく一方、冬子は毎日の家仕事に追われてなかなか筆が進まない。焦りを感じる冬子はある日、師の尾形からおぞましい誘いを受けて……。女性の直面する社会的な困難を克明に描き、最後まで己の道を諦めない強さと、最愛の伴侶との絆に胸を打たれる。現代を生きる私たちに寄り添う、勇気と希望の湧き立つ傑作長編。