デパートの最上階にあるレストラン。特別なあの場所に、キラキラした思い出がある方も多いのではないでしょうか。
とはいえ、すっかりご無沙汰の方もいるはず。
物語の舞台は、そんな時代の変化で存続の危機にある老舗百貨店の大衆食堂。再建を託された主人公が思い出の味を守るために奮闘します。従業員たちの一致団結の奮闘に胸が熱くなる、お仕事×美味しい物語を召し上がれ。
「小説推理」2021年11月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューと帯デザインで『たそがれ大食堂』をご紹介します。
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ああ、爽快だ。楽しい。懐かしい。何よりお腹が減る!
三十八歳のシングルマザー美由起は伝統あるマルヨシ百貨店勤務。ところが仕事で失敗してしまい、半ば懲罰異動のような形で未経験の食堂部でマネージャーに就任した。
長年愛されてきた大食堂も時代の変化とともに存続の危機に立たされている。そこにボンクラ若社長が引き抜いてきた新料理長の智子は、腕はいいが気が強く、コミュニケーションに難あり。初日から伝統ある大食堂にケチをつけて、料理の味を変えようとしたためヤンキー上がりの副料理長と一触即発の状態に……。昭和の面影を残す古き良き大食堂の運命やいかに!
という話なのだが、もう百貨店最上階の大食堂というだけで懐かしスイッチが連打されてしまう。最近はすっかりテナント式のレストラン街ばかりになってしまったなあ。だが確かにあの往年の大食堂と今のレストラン街の二択なら、おしゃれなレストランやカフェを選ぶかも……。
という私のような顧客をもう一度大食堂に呼び戻すためにはどうすればいいか。美由起と智子を中心に大食堂のスタッフ+α(このαが最高なのだが、それは読んでのお楽しみ)で作戦を練るというのが本書の読みどころだ。イマドキの流行に追随したのでは意味がない。コストにも限りがある。大食堂の伝統と強みを生かしたアイディアに、なるほどそう来たか! と前のめり。
特に、メニューがひとつ完成するごとにスタッフの結束が強まっていくのがとてもいい。古いものと新しいもの、求められているものと作りたいもの、守りたいものと変えたいもの。相容れないはずのそれぞれのいいところを見つけ、組み合わせると、思いがけない力が生まれる。それを人間関係にも重ねているところがニクい。オムライスにハンバーグ、エビフライやナポリタン。そしてデザートはプリン、あるいはクリームソーダ。昔の良さを守りつつ生まれ変わった新しいメニューがひとつの皿に盛られた、大食堂ならではの〈あのメニュー〉が物語の掉尾を飾るのは、そのままチームの結束を表しているからなのだ。尊い!
なぜ美由起が大食堂に異動になったのか、なぜ智子が引き抜かれたのかといった背後のアレコレも物語に絶妙なスパイスを与えている。登場人物もみな個性的で魅力たっぷり。隅から隅まで美味しくて懐かしい物語だ。大食堂の思い出が蘇り、行ってみたくなること間違いなし。どこかのデパートに残ってないかな?