2019年に数々のミステリーランキングに入り、2020年本屋大賞にノミネートされた話題作『むかしむかしあるところに、死体がありました。』が遂に文庫化! 新しい帯はこちら。





 文庫化にあたり、単行本刊行時に「小説推理」2019年6月号に掲載された、書評家・日下三蔵さんのレビューをご紹介する。

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 青柳碧人の代表作『浜村渚の計算ノート』シリーズ(講談社文庫)は、数学の冷遇に不満を抱く数学者たちがテロ組織「黒い三角定規」を結成している社会が舞台となっていた。普段はトロいが数学に関しては抜群の才能を発揮する高校生の浜村渚が、数学を用いたテロ事件を次々と解決していく異色の数学ミステリである。

 他にも、大学の「ヘンな建物研究会」のメンバーが建物に関する事件に挑む『ヘンたて』シリーズ(ハヤカワ文庫JA)、進学塾のアルバイト講師が地理の知識を活かして事件を解決する『西川麻子』シリーズ(文春文庫)、自我を持った玩具たちの街で元弁護士の探偵が活躍する『玩具都市(トイシテイ)弁護士ロイヤーズ)』(講談社タイガ)など、多彩な作品を発表している。

 そんな著者が放つ最新作は、タイトルからも想像できる通り、日本の昔ばなしを本格ミステリとして再構築するという趣向の連作である。しかも各話が密室、アリバイ、倒叙、クローズド・サークルと、本格ミステリのパターンを一つずつ扱っているのだ。

一寸法師の不在証明」では一寸法師に殺人の疑いがかかるが、犯行時刻には鬼と戦って腹の中に呑まれていたという鉄壁のアリバイがある。アリバイが崩れても現場は密室で出入り出来ない。二重三重の不可能犯罪の解決とは?

花咲か死者伝言」では花咲か爺さんが何者かに殺されてしまう。事件を見ていた愛犬が爺さんの残したダイイングメッセージの謎を解き、真犯人に復讐を果たすのだ。

つるの倒叙がえし」では庄屋を殺してしまった弥兵衛の家に、つうと名乗る女が訪ねてくる。つうの正体は弥兵衛に助けてもらった鶴で、恩返しに来たのだ。雪に足跡を残さずに庄屋の死体を隠すトリックも面白いが、作品自体の構成に超絶技巧の仕掛けが施されているのが凄い。

密室龍宮城」では密室状態の部屋で伊勢エビのおいせが殺され、逗留していた浦島太郎が、その謎に挑むことになる。龍宮城の間取り図まで挿入された濃密な一篇。

絶海の鬼ヶ島」は桃太郎一行の襲撃から数十年後の鬼ヶ島が舞台だ。生き残った鬼の子孫の十三頭が暮らすこの島で、鬼たちが一頭、また一頭と殺されていく。伝説の桃太郎が再び現れたのか? 意外な真相に唖然とする一篇。

 昔ばなしや童話をミステリにした作品ならば、いくつか先例があるが、ここまで複雑なトリックを仕込んだものは前代未聞。青柳碧人、恐るべしである。

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 なお、本編の試し読みが出来る特設サイトは
こちらから。

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