小説推理新人賞はミステリの公募新人賞としては、江戸川乱歩賞に次いで創設が古い。乱歩賞は長篇ミステリの賞だから、短篇作品を対象とした賞としては、最も長い歴史があることになる。

 第一回の大沢在昌を筆頭に、香納諒一(第13回)、本多孝好(第16回)、永井するみ(第18回)、大倉崇裕(第20回)、蒼井上鷹(第26回)とミステリ界で活躍している受賞者は数多く、近年では『告白』の湊かなえ(第29回)、『ジャッジメント』の小林由香(第33回)、『スマート泥棒』の悠木シュン(第35回)ら有力な女性作家の登場が続いている。

 第25回の受賞者である長岡弘樹は、小説推理新人賞が生んだ人気作家の一人といっていい。シングルマザーの刑事とその娘を主人公にした「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞短編部門を受賞、警察学校を舞台にした連作『教場』(小学館文庫)で『このミステリーがすごい! 2014年版』の第二位にランクインするなど、その実力は誰もが認めるところだ。
 
 『陽だまりの偽り』『傍聞き』『赤い刻印』(いずれも双葉文庫)に続く『緋色の残響』は、本誌に発表された最新作五篇を収めた短篇集。『傍聞き』と『赤い刻印』の表題作で探偵役を務めた羽角啓子と菜月の母娘が、全篇にわたって登場する連作になっている。

 シリーズものだが、「傍聞き」を読んでいない、あるいは細部を忘れてしまった、という読者のために、カバーに印刷されているQRコードで全文が読める親切仕様なので、本書から手に取ってもまったく問題はない。

 事件の目撃者となった菜月が意外な方法で似顔絵を作成する「黒い遺品」、被害者が飼っていたメダカが犯人逮捕の決め手となる「翳った水槽」、新聞記者志望の菜月の地道な努力が誤認逮捕事件の新証拠に結びつく「無色のサファイア」など、短篇ミステリのお手本といいたくなるようなハイレベルな作品が揃っている。

 シリーズ探偵ものではキャラクターの役割は固定されているのが普通だが、本書はそうではない。菜月の行動や直感をヒントに啓子が真相にたどり着く場合もあれば、啓子が犯人を見破った理由を菜月が推理していく場合もある。謎解きのパターンが違うということは、意外性のポイントが作品ごとに違うということだ。作者は大変だろうが、その分ミステリとして高密度なのである。