親から見捨てられ、親友に裏切られ、学校では謂れのない暴力と恐喝にさらされる高校生、時田祥平。もう死にたい、いや、だったら奴を殺してから死のう……そう思っていたとき、彼の前に不思議なピエロが現れた。祥平に暴行を加えていた少年たちを追い払ったピエロは、彼の殺害計画を手伝ってやると言い出す。
本書の主人公はもうひとりいる。息子をいじめによる自殺で亡くした父親、風見だ。息子はいじめた者たちの名前をノートに書き遺していたが、血にまみれて判読できなくなっていた。いじめの犯人を突き止めようとした風見の妻は次第に精神の安定を欠き、息子の命日に自ら命を絶ってしまう。抜け殻のようになった風見だったが、とある出会いをきっかけに、あらためて犯人捜しへと乗り出す。
このふたりの物語がある箇所でシンクロするという構成だが、一筋縄ではいかない。予想を裏切る展開に、先が気になってページをめくるのももどかしいほどだ。だがその求心力は決して構成だけによるものではない。際限のないいじめに苦しむ少年の悲鳴と絶望、家族を救ってやれなかったことで自らを責め苛む父親の懊悩。それらが礫のように読者を打つのだ。少しでも救われる道はないのかと、祈るような気持ちで読み進んだ。
だが、ふたりの個々の問題に同情したり憤慨したりしているうちに、この組み合わせにこそ著者の狙いがあったことに気づかされる。本書のテーマは〈連鎖〉だ。
作中に「誰かから向けられた理不尽な悪は、憎悪という強力な武器になり、別の誰かを切りつける」という一文がある。まさに事件は、この憎悪の連鎖によって思わぬ方向へと動くわけだが、同時に、善意の連鎖もあるのだということが、少しずつ読者の胸に沁みてくるのである。
受けた傷が深いほど、恨みを忘れることなどできないだろう。だが憎悪の連鎖よりもより強く、善意の連鎖があれば。恨みは消えないまでも、新たな希望を見出すことができるのではないか。本書は強く、そう訴えてくる。
終盤、ある人物が何をして何を思ったか、独白ですべて語ってくれるため読者は説明を読むだけになってしまう部分が惜しいが、まだデビュー二作目だ。技法は今後いくらでも伸ばせる。むしろこのテーマに挑んだ志を買いたい。
辛く悲しい物語の果てに差し込む一筋の光。荘厳にして感動的なラストシーンである。