ああ、自分も三十代半ばだった頃、こんなこと考えたことあったな、こんな人が身近にいたなと、読みながら心の中で何度うなずいたことか。朝比奈あすかの新刊『人生のピース』は今の時代の女性たちの本音が詰まった一冊だ。

 主人公の大林潤子は食品メーカーの広報部に勤める三十四歳。仕事はそれなりに順調で忙しく、プライベートでは中高女子校時代に一緒だった児島みさ緒や水上礼香らといまだに親友同士。数回デートを重ねた男性はいるもののトキメキにはほど遠く、しかし期待する気持ちはなくはない。

 その朝、「朝活」に遅れてやってきた礼香の報告に、潤子とみさ緒は衝撃を受ける。これまで一度も恋人のいなかった彼女が、見合い結婚すると言うのだ。このあたり、友人の幸せを喜ぶと同時に焦りや嫉妬を感じる心理描写がリアル。それを機に、みさ緒は腐れ縁となっているダメ男の同棲相手と縁を切ってマンションを買うと言い出し、件の気になる男性との関係も破綻した潤子は勢いで結婚相談所に入会。そこからの日々が活き活きと描かれていく。

 とにかく感情の機微が実に生々しい。三十代半ばで独身主義でなかったならば、友人の結婚を知って今後の自分の人生をふと考えてしまうことはあるだろう。恋の予感はするもののまだ親しくなっていない相手へのメールの文面に思い悩む様子や、会社で部下となった新人女子の大胆で斬新な提案の数々に一瞬感じてしまう戸惑いと抵抗、結婚相談所のコンサバティブなアドバイスに苦笑してしまう気持ちや、「頑張っているように見られたくない」というプライドも、ああ、分かるなあ、と素直に思える。

 潤子の良いところは、自分を客観視する目を持っているところだ。だからこそ、彼女の脳内の本音や自分ツッコミがどこかコミカルで楽しめる。感情の起伏はもちろんあるが、ではどう行動すべきか冷静に判断を下そうとしている。これは友達と笑い飛ばせる、これは人に言えない、これは先輩女性に相談しよう……そんな線引きもきちんと行っている。似た悩みを持つ同世代の人間だったら、なおさら彼女の言動に共感と親しみをおぼえるのではないか。

 ひと昔前のドラマだったら、数々の奮闘の末に誰かと結ばれてハッピーエンドを迎えただろう。でも、今時そんな安易な物語に納得する人なんて少ない。本作もまた、そんな予想通りの結末には至らない。でも、前向きな気持ちにさせてくれる。現代日本を生きる人たちの、普遍的な思いを照らし、心を軽くしてくれる一冊である。