ああ、この喜びを、どう表現したらいいのだ。双葉文庫のロングセラー『ひかりの魔女』のシリーズ第二弾が、書き下ろしで刊行されたのだ。一冊で完結した作品だったので、続きはないと思っていただけに、嬉しい誤算である。えっ、なんでそんなに浮かれているのかだって。周囲の人々を幸せにするスーパーおばあちゃんの真崎ひかりさん(さん付けをせずにはいられない素敵な人物である)と、また会うことができたからだ。欣喜雀躍、狂喜乱舞状態になるのは、当然のことなのである。

 前作は長篇だったが、本書は連作短篇集だ。四季に合わせた、四つの物語が収録されている。冒頭の「春」の主役は、シャッター街で寂れた純喫茶を営んでいる二十五歳の鳥海結衣。人と話すのが苦手で、亡き祖父から引き継いだ店も、そろそろ閉めようと思っている。そんなとき、祖父に線香を上げたいと店を訪ねてきたのが、ひかりさんだ。彼女の発案で祖父の集めていた古銭を飾ったことから、店の雰囲気が変わり、結衣も変わっていく。

 続く「夏」は会社社長の座を追われた東郷丈志が、「秋」は先行き不安な工場を経営している田野上夫婦が、「冬」はラーメン店を潰して自己破産した湯崎弘司が、それぞれひかりさんとの出会いによって、前向きに生きていくようになる。

 本書の魅力の源泉は、ひかりさんである。美味しい田舎料理が作れる。書道の先生をしていた時代からの、幅広い人脈を持つ。人の良い面を見て、相手を元気づける、明朗な性格をしている。ひとつひとつは特別なことではない。だがそれを当たり前のように活用することで、人生に行き惑っていた人の心が変わっていく。心が変われば生き方も変わる。人々を前向きにしていくひかりさんは、まさに優しい魔女なのだ。

 とはいっても、ひかりさんに救われた人々の幸せは、些細なものである。だが、それがいい。「夏」の東郷は、「春」で結衣を恫喝する、嫌な人物として登場している。「秋」「冬」の主役も同様で、前の話で嫌な人、もしくは駄目な人として姿を見せるのだ。

 それが、小さな幸せを得たことで、自分も誰かを幸せにしようと思うようになる。ラストの「冬」では、これまでの主役が湯崎と絡み、彼の勤める寿司屋が祝祭空間となるのだ。ひかりさんを中心に広がっていく、温かな人の輪が、とにかく気持ちいいのである。